小説
□幼少年
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僕がワカバに住み始めてまだ一週間も経っていない、日が浅い頃。
その日はとても天気が良く、僕は何となく外に出て、木の下で空をぼんやりと眺めていた。
……ヨシノとはちょっと違うこの町の空。
まだワカバに慣れていない僕だったけど、ここの空をすぐに気に入った。
何にも染まっていない、空。
ここに来る前に色々な出来事があり過ぎた僕にとって、この空を見上げる事が惟一、心に安らぎをくれるひと時だった。
―――そんな時だった。
あの二人が僕に、最初に話し掛けてきたのは……。
「あれ?あんた……だれ??」
「え……」
突然声がした方を向く。
すると、僕から少し離れた所にピンクの髪の女の子と白い髪の男の子が立っているのが見えた。
この町の子供だろうか?
そう思いながら二人を見る。
「ここさ、ワカバタウンの空がすっごく見えるいい所なんだよねぇ〜」
「でもビックリだなぁ……オレたちしかここ知らないのに」
「あ……えっと…………」
オドオドしている僕に構わず話を進める二人にどう話し掛ければ良いのかタイミングを伺っていると、今度は二人同時に「あっ」と声を上げる。
「そうだっ!ねぇねぇ。あんた、私たちと遊ばない?」
「えっ……」
「おっ!!いいなっ、それ!!」
「あ…あの……」
「じゃっ!なにしよっか??」
「…………」
今まで兄と遊ぶ事しかなく、友人と言える人物がいなかった僕はどうすれば良いのか分からなかったが、ただ二人に手を引かれるがままだった。
「…………って事も、あったよな」
「そうだなぁ……」
あの日、僕達が初めて出会った木の下で、三人揃って座っている。
ここでの思い出を思い出しながら空を見上げる。
ずっと変わる事のない、ワカバの空。
あの時は、空を見上げる事だけが僕の心を癒していた。
でも……今は違う。
「そういえば……今思うと、あの時のカエデは今の口調じゃなかったよな」
「ああ。今よりもずーっと可愛かったかもなぁ」
「ああ!?んだとツバキ!!」
「やっべっ!逃げろ!!」
「待てーー!!」
カエデの怒鳴り声と、ツバキの冗談に溢れた悲鳴が聞こえる。
……明日、僕達はワカバタウンを旅立つ。
三人が歩む道はそれぞれ違うけど……僕達はいつまでも共にいる。
「……そろそろカエデ止めないとマズイかな」
そう呟きながら、立ち上がる。
ちらりと後ろに立つ木を視線をやる。
そして、僕はそのまま二人に向かって走り出した。
「あっ、そういえば、はじめましてだよねっ!私はカエデ!」
「オレはツバキ!おまえは?」
「ぼく……ぼくは、トウヒ」
僕らは……共に、ある。
*謝罪(後書き)→*
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