小説

□思い返す記憶と反省
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「まさか、オーキドのジイさんに呼ばれてたのがお前らだったとはな」


とある船の甲板。
そこで、一人の少年が黒い髪(正確には前髪だが)を風に靡かせながら隣にいる桃色の髪を持つ少女に話し掛ける。
すると、少女は苦笑を浮かばせながら、水平線へと向けていたその眼差しを少年へと向けた。


「正確には私だけ、って言うのがホントなんだけどな。…昔色々あって、その事についてオーキド博士は知りたい事があったらしいから」


少女――カエデは、そう語りながらどこと無くぎこちない感情をその顔に宿しつつ、小さく笑ってみせる。
今から四年前に起きた、ある事件。
その事件の記憶はカエデ自身を蝕むと同時に、周りの人間の心も重苦しさを感じさせている。
それは今でも続いていて、時たま見せる辛そうな顔が痛々しい。


「なるほどなぁー…まあ俺は色んな厄介事に巻き込まれてるからな。ちょっとやそっとの事じゃ動揺しねぇし」
「……お前のそれは、いわゆる能天気ってヤツじゃないのか?ゴールド」


少々冷ややかな眼差しをゴールドに向けつつカエデが呟くそうにそう言うと、ゴールドは衝撃を受けたかのような表情を浮かばせながら反撃へと出た。
(こういうのを反撃と言うのは、正直怪しい所ではあるのだが)


「お前なぁ…能天気って言ったら、レッド先輩の方が数段上はだぞ?!上ッ!!」
「って、それ先輩に対して言っていい言葉なのか?」
「レッド先輩だからな」
「…まあ分からなくもないけど、なぁ?」
「だろ??」


絶える事のない笑い声。
それを聞き付け、一人の少年が二人に近付いていく。
少年はカエデの後ろに立つと、軽く肩を叩きながら話し掛けた。


「二人で何の話してるんだ?」
「あ、ツバキ」


カエデがその声に応えながら振り返ると、そこにはツバキが立っていた。
ツバキの姿を見るや否や、ゴールドはつい先ほどカエデにもしていた話を今度はツバキにもし始める。


「……ってわけなんだよ」
「あー、なるほどなぁ…確かに言われてみると、レッドさんってそんな雰囲気あるもんな」
「うーん…でも能天気って言うよりも、天然って感じの方がレッドさんには合ってると私は思うんだけどな」
「あ、それ同感」


再びその場に笑いが溢れると、カエデは笑うのを止め、代わりに小さく微笑みながら二人を交互に見つめた。
そして、その事に気付いたツバキもカエデを見つめる。


「どうした?」
「いや…ゴールドとこうやって話すの久々だなぁ、って思ってさ」
「……そういや最後に話したのってー…あれ?いつだ…??」


唸りながら思い出そうとするが、中々思い出す事が出来ずに、やはり唸り続けるゴールド。
そんな彼の顔を見つめながらカエデとツバキも考えるものの、ただただ時間は過ぎていくばかりだ。
どれ程の時間が経ったか分からなくなったという所で、カエデが小さく「あっ」と声を上げた。


「そうだ、あの時だ!!」
「……えっと、あの時ってどの時だ?」
「ほら、トウヒが凄い熱で倒れて…」


そこまでカエデが言った所で、ツバキとゴールドは二人揃って声を上げる。




それは、カエデ達が旅立つ数年前。
まだゴールドも旅立っていない頃の事だった……




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