小説

□二人の恋路
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「ねぇねぇ。二人ってカエデの事どう思ってる?」


そんな応えられるような応えられないような…よく分からないモミジさんの一言から対談は開始された。
……まあ、元々は旅の途中俺とトウヒが再会した事から全ては始まったのだが……。久々に会った俺達は近くのポケモンセンターで話そう、という事になりとあるポケモンセンターにやって来た。そして、同じ幼なじみであるモミジさんとも会った。
という具合だ。
最初は旅の話。そして次に昔話。
極々普通の会話だったのだが、次第に話の方向性はズレを見せていた…。


「そう、だなぁ……。やっぱ、普通の幼なじみ?後、昔からの遊び仲間とか……」
「へぇ……トウヒ君は?」
「……俺もツバキと同じ、かな…」
「ふぅ〜ん……」


…え、何ですかモミジさん。その意味深ともとれる頷き方は。
そう内心でツッコミつつ、顔に出たり口が勝手に動かないよう頭の中でその二つを制御する。
俺と同じ事を考えているのか、いつも通り無言のトウヒの表情から僅かに感情が漏れている。


「でも、どうしたんですか?急に」
「ん?二人共、カエデの事好きだったらどうなるかなぁ?って思ってね」
「「……………はあ?」」


思わず俺とトウヒの声が重なる。
そりゃもう「この人は何が言いたいんだ?確信犯?確信犯なのか??」と言いたげな顔をしながら。
……実際に口に出した瞬間、この人のポケモンによるカウンターと天使が微笑んでいるはずなのに悪魔にも見えるモミジさんの笑みを拝む事になるから、な。うん。


「そういえば昔、二人がカエデの取り合った事もあったわよねぇ。懐かしいわぁ…」
「…って、えっ、はああああぁぁぁ!!!!???」
「……ぇ、モミジさん……それ、いったいいつの話ですか?」


俺の在り来りな反応とは裏腹、トウヒは落ち着いてモミジさんに問い掛ける。
……とか言いつつ。内心ではかなり動揺しているのが見える。
分かりやすいなー、おい。


「あら、覚えてないの?……そうねぇ。三人はまだ5歳くらいの頃の話だから、覚えてないのも無理ないわね」
「……さいですか」
「……………」


どうりで覚えてないわけで。
10年近くも昔の事とか覚えてたら嫌でも記憶力いいよな、うん。
そんな事を思っていると、センターの出入口から予期せぬ声が聞こえて来た。


「あれ?ツバキにトウヒじゃん。あ、姉ちゃんも」



この馬鹿あああぁぁっ!!!!
お前どんだけ良いタイミングで来ちゃってくれてんのぉ!!?
あまりのタイミングの良さにトウヒまで固まっちまってるだろうが!!
そんな俺達に気にせず、モミジさんは「あら、カエデ」としか言わない。
……まさか。モミジさん、俺らの事嵌めました……??
固まったまま回復する様子が見られないトウヒを視界の片隅に置きつつ、モミジさんを見る。
すると、ただにこりと笑うだけだった。
……やられた。ぜってー確信犯だこの人。他に言いようがねぇ。


「何三人で話してるんだ?」
「実は昔話をちょっとね。カエデもこっちに来たら?」
「ああ、そうする。……てか、トウヒの奴どうしたんだ?カチコチに固まってっぞ?」
「(お前のせいだよ、お前の!!!!)」


内心で会心の一撃とも言えるツッコミをカエデに入れながらトウヒを見る。
……ダメだ。暫く治らねぇな。
つか俺だけにすんなよ、トウヒぃ…!!


「んで?昔話ってどんな??」
「(聞くなっ!聞くなよ馬鹿あぁ!!)」
「カエデについて語ってたのよ。ねぇ?ツバキ君、トウヒ君」
「は、はいぃっ」
「……………………ぁ、はぁ」


良かった……モミジさんの言葉でトウヒの石化が治った…。
って良くねぇ!!この状況ぜってーマズイって!危機だよ、危機ッ!!
もはや顔にも出そうな位叫ぶ俺。そして石化から復帰したが無言でこの状況に堪えているトウヒ。
……どうなるんだろうな、この対談。


「え?私の話?」
「そう。…私から見て、二人共カエデの事が」
「あーあー!!ちょっ、その!!俺ら外行って来るッ!!」


そう言いながらトウヒの腕を無理矢理掴み、外に向かって走り出す。
走っている最中カエデが俺達を呼ぶ声が聞こえたが、生憎今は耳を傾けるだけの余裕はない。
つか残ってるわけがない。
一先ず俺らに不利(?)なこの状況から脱するべく、俺はトウヒを引っ張りながら必死に走った。



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