モノクロ世界

□正解と間違い
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寮の裏手になんとか辿り着いた。
ガクッと倒れるように、煉瓦づくりの壁に背を預ける。

「っはぁ…は……」


なるべく誰にも気付かれないように…

でも、郁ひとりでできることには限界がある。
そこはきちんと分かっているつもりだ。

ポケットの中の携帯を手で掴んだ。
引き出して、電話帳を開く。
数少ない登録番号の中から目的のものを探すのは、簡単なことだった。






カチ…カチカチ……


…ッ…ッ…


トゥルルルルルルル…






コール音が鳴り出してからすぐに、耳につけた携帯から、かけた相手の軽やかな声が聞こえた。



『…はい、妃ですわっ
郁さんからお電話だなんて…っ
妃、感激ですわっ

それで、ご用は何でして?』


きっとジェスチャーが凄いのだろうな、と考えた。
容易に想像ができる。
だけど、そんなことで笑みを零せる程の余裕はほんのちょっとでさえも無かった。

「…ひめ…ごめ…っちょ……ねが…があ…て……っはぁ…」

心中はまだ穏やかであったとしても口を開くと、全く思った通りに言葉を発せない。
まるで自分のものではないみたいだ。

『っ郁さんッッ!?
何が…っどうしたのですのっ!?
一体、今どちらに…っ』

するとやはり…と言えばよいのだろうか。
聞くからに酷く動揺した妃の声が耳に入った。

「…だいじょ…だから…
血を…隠せれるもの…お…がい

あと…誰にも……気付かれな…で…」


『…分かりましたわ
すぐに向かいます』


簡潔に要件のみを伝える。
きっとこれだけで伝わってくれるだろう。


「ん…ごめん
…寮の……裏手…ぃ?」


『はい、すぐに』

「ありがと…」




プ…ッ


ツー…ツー…ツー…ツー……





ボタンを押すと、無機質な機械音が耳元で静かに鳴り響き続いた。

妃のことだからきっと、数分もすればすぐに来てくれるだろな。


柳はこの前のことがあるから、すぐに勘づいてしまう。
智は口は堅いけど、調べちゃうからなぁ。
厘と獸は…きっとすぐ誰かに気付かれちゃうな。
それで仕方がないと思って、正直に喋っちゃうんだろうな。

憎めないから困るよなぁ。



…そんなとこも含めて大好きなんだけどね。
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