小説

□蜘蛛の糸は月の綺麗な夜に張られる
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草木も眠る丑三つ時…
デストロンの科学者兼忍者兵であるタランスの部屋には
うっすらと明かりがつき
その部屋にはキーボードを叩く音と
ワスピーターの寝息が漏れていた。

「スピー、スピー…むにゃむにゃ…」

「あぁぁあ!! もう!」

「むにゃむにゃ…
タランス、なにするんだブ〜ン!」

タランスにくっついて眠っていたワスピーターは勢いよく蹴られて転がった。

「それはこっちの台詞ッスよ!
何なんスか、チミは!
自分の部屋があるんだからそこで寝るッス!!
大体何でアタチに引っ付いて寝るッス!?」

まくし立てるタランスとは対称に
ワスピーターはいつもの様にマイペースに考え、ようやく答えを口にした。

「ブ〜ン、特に理由なんか無いブーン!
ただ引っ付いて寝れるのがいいんだブーン」

しれっと悪びれる事なく言うワスピーターに
軽く眩暈しつつも、
さっさと部屋に帰れと
かなりきつくドアに指を指して言い放った。

「ブーン!
なんだよ〜、タランスのドケチんぼ!!」

捨て台詞を吐きながら、
ワスピーターは五月蝿く羽根を動かして部屋から出て行った。
しんと静まり返った部屋でタランスは溜息をついた。

「……ハァ
あんのバカ蜂、
アタチの気持ちなんか気づいてないッスから余計小憎らしいッス…」

タランスはワスピーターが掴んでいた左側上から三番目の足を撫でた。
その足はまだ温かく、
少しベタついていた。

タランスはワスピーターにほのかな片想いを抱いていた。
いつ頃からかは分からない。
ただ気づいたら惹かれていたと自覚した。

「ハァ…
アタチはそんなセンチメンタルなキャラじゃないッスよ」

誰が聞くわけでもない独り言を呟きながら
コンピューターをしばらく眺めた後、
突然電源を落としてビーストモードに変身した。

「あんのバカ蜂のせいで仕事する気無くしたッス!
気分転換に外にでも出るッス」

タランスはカサカサと
8本の足を動かして部屋を出て行った。


タランスは器用に脚を動かして基地の真上に登り、
空に浮かぶ満月を眺めていた。
悠々と輝く様に彼は感慨深そうに溜め息を漏らした。

「月が綺麗ッスねぇ〜
あのバカ蜂の眼みたいで…」

「ぼくちゃんがどうしたブーン?」

真横から聞こえた声に驚いて、
タランスは危うく基地からずり落ちそうになった。

「ア、アンタ部屋に戻ったんじゃないッスか!?」

なんとか態勢を立て直したタランスは
平静を装いながらワスピーターを睨んだ。

「だってぼくちゃん寝れないんだブーン。
部屋に戻る途中、
お月様が綺麗だったから
外に出たんだブ〜ン」

またしても悪びれる様子の無いワスピーターに
呆れたタランスは力無く答えた。

「ブ〜ン。
タランス、まだ怒ってるブ〜ン?」

ワスピーターもビーストモードになって
急にタランスの視界いっぱいに近寄った。

「なぁ!」

あまりの近さにタランスはまたバランスを崩しかけた。
が、さすがに足にぐっと力を込め倒れるのを防いだ。

「アンタ、いい加減にするッス!」


「わぁ〜、叩かれた〜」

思いっきり頭を叩かれ、
気の抜けた声をあげるワスピーターを尻目に
満月を見上げるタランスは内心嬉しかった。
こんなロマンチックな場面でワスピーターと二人きりと思うと
いつもの彼からは想像出来ないくらい
コンピューターが熱く稼動していたからだ。

「タランスもお月様見るんだブーンね」

タランスの左側に寄り添う様に降りたワスピーターが言った。

「アタチだって月ぐらい見るッスよ」

ワスピーターに目もやらずにそう言い放つと
ワスピーターの欠伸が聞こえてきた。

「ぼくちゃん眠いから
タランスの背中で寝るブーン…」

「なっ、ちょっ、待つッスよ!!」

慌てるタランスの声など聞かず、
ワスピーターはタランスの背に頭を乗せると
すやすやと寝息をたててしまった。

「こぉんの… バカ蜂がぁ〜〜っ!!!」



…結局タランスはワスピーターを乗せたまま
日が昇るまで起きる事となり、
しかもコンピューターが異常に熱くなって
再生プールに入るはめになった―



〜オマケ〜
「メガトロン様、
あいつどうしたんでしょうね?」

「分からん…」

「父さん…
タランスは熱を出したわけで…」

「なんでそのモノマネなんザンスか!?」

「ただ…
やってみたわけで…」

「ごっつんこ〜」

「ええい五月蝿いわ!
無法地帯かっ!ワスピーター!
貴様は何があったか知らんのか!?」

「ブ〜ン、ぼくちゃん知らないブーン」

(ア、アンタのせいダスよ…)


END
 

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