小説

□嘘から進む恋
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「えっと、今日の仕事内容は…」

私の名はロングアーム。
オートボットの情報部のエリートガード長官だ。
ただし全ては『仮』―

「ロングアームいや、
ショックウェーブ…」

「メガトロン様、
今日も特に変わりはありません。
明日の予定は―


…そう、
俺の本当の名はショックウェーブ。
ディセプティコンから来たスパイだ。
この事は誰一人知らない。

「良い働きを期待するぞ
ショックウェーブ…」

「ありがとうございます、メガトロン様…」

メガトロン様との会話を終え、
俺は『ロングアーム』に戻って作業に取り掛かった。

「ロングアーム長官おはようございます!」

「ブラー、おはようございます。」

「…ほ、本日の作業をもう始めてるんですね凄いです僕も早く取り掛からないと!」

そういうと彼は話もそこそこに長官室から出て、
自慢のスピードで資料室に向かった。
彼の名はブラー、私の直属の部下だ。
かなりの早口で動きも素
早くて最初は戸惑ったが
今では慣れてきちんと聞き取れる様になった。

「長官こちら昨日言っていた資料ですこれで大丈夫ですか?もしまだあるなら取りに行ってきます」

「いいえ。
必要な資料はちゃんとあるから大丈夫ですよ」

そういうとブラーは
よかったという表情になった。
私は彼が無防備にテーブルに乗せた手をじっと見た。

「ブラー、
いつもあなたのおかげで助かります。
ありがとう…」

「っ!!」

そっと手に触れただけで
ブラーは体をびくりと一瞬跳ねさせた。
軽く触れてるだけなのに
その手は次第に熱くなっていき、
とうとう我慢出来なくなったのか
突き放す様にブラーは私の手から離れた。

「や、あのぉ…
長官の手伝いをするのが僕の役目でそれはごく当たり前な事ですなのでそこまで感謝するなんて恐縮…
も、もう僕は他の仕事があるので失礼しますロングアーム長官!!」

赤面した顔で逃げる様に部屋から出ていった。
私は僅かに熱が残る左手をじっと睨んで意地の悪い笑みを浮かべた。

「フッ…
思ったよりも純情で
…簡単に落ちそうだ」

最近、ブラーが私に恋愛感情を持っていると感じた。
勘違いとか妄想ではない確かな恋の感情。
彼の私を見つめる目は
甘ったるい熱を含み、
話す時の声も微かに震える。

「そう、だから利用するんだ…」

彼の持つその想いを逆手に取って、
『恋人』という関係を持てば裏切る事は無い。
手前味噌ながら中々の案だと思いながら
私は彼に『自分も同じ気持ちを持っています』というアピールをしている。

「只今戻りましたロングアーム長官」

「お帰りなさい」

優しく穏やかな笑みを浮かべると
ブラーは白い頬を少し赤らめて作業に取り掛かった。

(哀れな奴だよな…
こんな私を好いてるだなんて…)

一種の哀れみを彼の聴覚センサーに聞こえない様に呟き
私もさっさと彼の持ってきた資料に目を通して仕事を始めた―


「ん…
あっ、く…」

何時間かが経ち、
コンピューターに向かって作業していると
ブラーの少し苦しげな声が聞こえた。
顔を上げて見ると、
ブラーが高い棚の上に
置かれた資料ファイルを取ろうとしていた。
しかし小柄な彼には棚が高すぎて、
見るからにしんどそうだった。
それを見てニヤッとほくそ笑んだ私は
彼の隣に歩み寄った。
ブラーは私の顔を一瞬見ると、
恥ずかしそうに下に向けた。

「よいしょっと!」

「へあっ!?」

ブラーは抜けた声を発しながら私を見下ろした。
そう、私は左腕を伸ばして彼の腹部に巻き付かせて持ち上げたのだ。
驚き、たじろぐ彼は私に向かって
いつもより早い口調で話した。

「ロロロングアーム長官何してるんですか!?
僕ならへ、平気…です…」

「そんな爪先立つじゃきついでしょ。
何か取りたい物があるなら言って下さい。
その為に私の腕は伸びるのですから」

元の『ショックウェーブ』なら絶対にしない様な微笑みをブラーに見せると
彼はただただ恥ずかしそうに一礼をして戻っていった。

(必ずお前を私の手駒にする…
絶対にな)

柔らかな笑みの下に邪悪な目標を浮かべた私は
ブラーを見つめながらそう誓った。


END

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