Novel
□鮮血の支配者
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この世界がいずれ滅びる運命にあるのなら
もしそれが必ず訪れる定めなら
もしそれが誰も何もしなくても起こるなら
僕がこの手で終わらせてやる
* * *
自分がいつから自分なのかなんて、
そんなことはもう忘れた。
それに、そんな意味もない考えで時間を無駄にするくらいなら、
無限に近い時間を自らの《役目》に使う。
そのために自分は生まれたのだから。
自分の役目は果たす。
たとえそれがどんな役目でも。
* * *
僕の名はリン。
いつからこの名前なのかなんて知らない。
記憶にある限りでは、最初からこの名前だった。
僕はリン。名前は、変わらない。
けれど、僕の本当の姿は僕ですら知らない。
僕は異なる世界に行くたびに姿を変える。
時には、異なる相手に会うたびに姿を変える。
だから、元がどんな姿なのかなど、もう分からない。
今の僕は、すらりとした白い鷺に似ているが、
赤い冠羽が少しばかり目立つ変わった姿をしている。
でも、見た目がどうかなんて正直気にしない。
その世界で動きやすければ何でもいい。
それに、今はちょっとばかり目立つのがたいした問題ではない状況にいる。
もうとっくに目立ってしまっているし、何より目立つ僕に目を止めるものなど何もいない。
何でかってそれは、この世界に息をしているものがいないということに他ならない。
……僕は数えない。
だって僕は息をしていない。
死んでいるという訳ではない。
もしそうなら、死んでいる僕に世界を丸ごと一つ滅ぼすほどの力があると思うかい?
………なんだか話がややこしくなってきたね。
あくまで僕はリンなんだ。
それさえ分かっておけば十分なんだけどね。
でも、せっかくだから、この虫の息の世界の真ん中で僕について話してあげるよ。
我ながら変わってるよ。
でも、全ては僕の気分次第。
それより上のものは、無い。
なんて可笑しいんだろう。
寒々とした感情に、響き渡るのは僕の笑い声。
最初に言ったと思うけど、僕はいつ生まれたのかなんて知らないし、
知る必要もないと思う。
だからそれは言わない。
僕に与えられていたのは、リンという名前と、《役目》だけ。
…僕がさっきから言ってる《役目》って何だと思う?
僕の役目は、そう、世界を滅ぼすこと。
それが与えられた僕の生きる意味。
僕は《鳳凰》と呼ばれる鳥の一羽だ。
ある意味では神ともいえる。
ただし、僕は数多い《鳳凰》の中でまず他にはいない滅びを司る《鳳凰》だ。
他に《滅びの鳳凰》がいるかなんて知らない。
僕のような鳥は本当に少ししかいないから、もしくは他にはいないから、
僕は会ったことがない。
他の《鳳凰》たちはたいていそれぞれの世界に一羽しかいない。
彼らは誕生を司る《鳳凰》だ。
彼らは世界と運命を共にする。
つまり、世界と共に《始ま》り、世界と共に《終わ》る。
実際には世界が生まれるより先に鳳凰は《無》の世界に存在している。
けれど、何もない世界では何も存在しないから、彼らは存在しない。
…僕にもこういう難しい話はよく分からない。
僕にとって重要なのは、誕生を司る鳳凰が、
世界の《終わり》が自らの《終わり》と知っているということ。
つまり、彼らは世界を滅ぼそうとする僕を必死で邪魔する。
僕は《鳳凰》だ。つまり、不死身だ。
《永遠》の力を持っている。
問題は、向こうも《鳳凰》で《永遠》の力を持っているということだ。
僕は《永遠》を奪ってから世界を滅ぼさなければならない。
でないと、世界はいずれよみがえる。
…なんだかおもしろい。
少し理不尽なゲーム。
僕は有利な立場にある。
だから悠々と、全てをかき回して翻弄して最後には全て片づける。
《誕生の鳳凰》に僕の《永遠》は奪えない。
僕は彼らの《永遠》を奪って自分のものにできるというのに。
《滅びの鳳凰》を滅ぼせるのは《滅びの鳳凰》だけだ。
僕は誰にも教わらなくてもそういうことを知っている。
それに、《滅びの鳳凰》が出会うなんてまずあることじゃない。
出会ったとしても、殺し合うとは限らないだろう。
僕は一方的に餌食を弄ぶ。
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