サクライロの時間飛躍

□第二幕 「星降る夜に」
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「・・・・・んぐ・・・・。」

奇妙な声をあげて起き上がった少女は辺りをキョロキョロと見回す。

「俺ん家だ。」

俺、もとい谷口隼人が声をかけてやると少女は、あ、と声を漏らす。

「えーっと・・・・隼人!!」

俺を指差して少女は無邪気に笑う。

たった2ページで他人のこと忘れてんじゃねぇよ!!

「兄ちゃーん、もう入っていいー?」

ドア越しから妹の声が聞こえる。

うっ・・・・・。

ダメだ。

この光景を見るにはあいつはまだ幼すぎる!!

「比奈ぁ、冷蔵庫にプリン、入ってたぞ!」

「えぇ!?本当?比奈、食べてくるー。」

入ってたっけ。

よくわからんが今の内にこの状況を打破しなければならん!

「さくら、一旦、俺と家から出よう。」

「は?何で?」

あっけに取られるさくらをよそに、俺は部屋の窓を開けた。

「とりあえず、お前はココから出ろ。俺も後から出るから。」

さくらは、意味がわからん、といった風だったが、表情なぞ気にしている暇はない。

比奈がプリンを食べる時は長くかかっても30秒だ。

しかもプリンが冷蔵庫に入っていたかどうかも定かではない。

「いいから、さっさと出ろ!」

そう言うとさくらはおずおずと動き出したので、俺は部屋を出る。

「比奈!兄ちゃん、図書館行ってくるからぁ!!」

図書館に何をしに行くというのだ。

という内なるツッコミを自分で入れる。

「うん。わかったぁ!ねぇ兄ちゃん、プリン、冷蔵庫のどこら辺に入・・・

  ガチャンっ

比奈の声を遮って玄関の戸を勢いよく閉め倒す。

「・・・・みやげに買って帰ってやるか・・・。」

せめてもの償いだ。

「どこ行くのー?」

「はいはい。」

さくらは暇そうに庭をうろついている。

ガシャンっと軽い音を立てて蒼い自転車が光る。

俺の記憶上では電車によって破壊されているが。

自分の鞄を前のかごに放って荷台を指差す。

「おら、乗れ。」

さくらはルンルンっと荷台に飛び乗ると俺に早く、と言わんばかりに目を差し向けてくる。

「どこ行くかね・・・・。」

俺は町の色んな所を思案しながらペダルをこぎだした。

もうあの踏み切りは通らない。
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