short novel.
□◇序章:紅命◇
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上司が病的な程敬愛する兄・邵可様の訪問と愛姪・秀麗からの贈り物(文付き)。
律儀な秀麗の事である。
きっと先だって黎深が邵可邸に大量に送った(送りつけた)紅州産みかんの礼状と礼品を贈ってきたのだろう。
通りで、養親が幸せの絶頂にいる訳である。
(相変わらず邵可様と秀麗を溺愛していらっしゃるなこの人は……)
絳攸は溜息をついた。この人はわざわざ自慢話を聞かせるためだけに自分を呼び出したのか。
…十分有り得るオチである。
適当に受け流して退室する事にする。
「それは良かったですねぇ。……では、仕事があるので私はこれにて失礼致します」
「待て」
退室しようとした絳攸を黎深は制した。
「誰が出ていいなんて言った」
先程とは打って変わったような不機嫌面に表情を切り替え、吏部尚書は言った。
「話があるからわざわざ呼んだのだ。絳攸」
「話……ですか」
「今朝方、本邸から文が届いた」
「玖狼様から!?」
絳攸は瞠目した。紅州に在地する紅家本邸にて、現在采配を振るっている義叔父・紅玖狼による直々の文が意味することはただ一つ。
紅家からの命。
「嫌とは言わせないが」
黎深はいかにもどうでも良さそうに扇でパタパタ扇いだ。
「お前に嫁を娶って貰うことになった」
一瞬の沈黙が両者の間に流れた。
「……………はぁぁあっっ!?」
絳攸の絶叫が吏部中に響き渡った。