short novel.

□◇微睡み◇
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「死ね」





ある春の昼下がりのこと。


空腹を抱えた浪燕青が調理場の敷居を跨ぐと、絶対零度の冷ややかな声音と共に、燕青を目掛けて包丁が数本降ってきた。



「うわっっ危ねっ!!――っておわ静蘭っ!?!?何だよ!?」


辛うじて避けた燕青を目掛けて更に数十本の包丁(菜切り包丁から肉包丁まで多種多様)が空を飛ぶ。


どれもあらゆる方向から正確に燕青の急所を狙っている。まともに食らったら一瞬でグサリと昇天である。


包丁が飛び終わるのを見計らった燕青がほんの一瞬動きを止めると、静蘭は包丁を持った手を見事な手捌きで翻し、切っ先を燕青の喉元に突き付けた。


包丁の二千倍は切れ味を増した声音で低く唸る。




「ほう。身に覚えが無いとは大した根性だな貴様。良かろう……その腐ったバッタ頭、今すぐカッ捌いてやる」


「うわーマジでたんま!!ちょっ待て早まるな!確かに身に覚えが無いバカ今まで散々やらかしてきたけども!せめて俺が何しでかしたか知る権利はあるだろーが!!」

命の危険を察した燕青は後退りしながら必死に弁解した。このままでは官吏になる前に殉職してしまう。


静蘭は眉を潜めた。なる程、一理ある。


包丁の切っ先を軽く燕青の首筋から離し、代わりに胸倉を掴み上げる。



「……何処へ遣った」


「は?」


「饅頭を何処へ遣ったと聞いているんだ!私が昨晩御主人様とお嬢様の為に作った饅頭を!!」

「あ――…あれかぁ〜…あれねぇ……」


燕青は冷や汗を流し、視線を泳がせた。


「いやぁ……そのー…」




「まさか貴様……食ったのか?」


静蘭の眼光が殺気を放つ。今にも燕青を視線で貫き殺さんばかりの目つきである。




「お前の返答次第で殺す。―…三秒待ってやる。とっとと白状しろ」



「つーかお前、俺を殺す気満々だろ……」


「三」


「いや、『俺は』食ってねーよ?」


「二」


「その、これには訳が」




「一」
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