short novel.
□◇微睡み◇
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問答無用で燕青の首を文字通り掻き斬ろうとした包丁は、すんでの所で空を切った。
「……チッ、往生際が悪い奴だ」
「“チッ”じゃねーよ!!!一秒早かっただろーが」
「フン。何秒待ったってお前が饅頭を盗み食いした事実は変わらん」
「だから俺は食ってねーって言ってんじゃん!!人の話聞けよ」
……じゃあ何処へ、と静蘭が言い掛けた刹那、燕青の懐がモゾモゾッ、と蠢いた。
慌てて懐を手で押さえつける燕青を怜悧な眼差しが注ぐ。
「……お前、何を隠し持っている?」
訝しげに問われた燕青は冷や汗を流しながら必死に作り笑いを浮かべた。
「いや、別に?何にも?気のせいじゃん?」
「出せ」
燕青の笑顔が一瞬にして固まった。静蘭は立ち尽くした燕青の懐にすかさず手を伸ばした。
「……何だ、これは」
手に引っかかり、つまみ上げたのはやたらフワフワした小さな白い物体。
大きな琥珀色の瞳を警戒本能で細めながら、仔猫はミャーミャーと鳴きながらじたばたしていた。
まだ生後間もないと思われる小さな体を精一杯に伸ばして、首根っこを掴んだ静蘭の指を目掛けて爪を立てようと懸命になっている。
「……邸の、裏で見つけたんだ」
燕青が妙に歯切れが悪い口調で弁解する。
「親猫探しても全っ然見つからなくてさ。ひどく弱ってたんで持って帰ってきたわけ」
んで何か食いもんねーかなって調理場を見渡したら、丁度良いところに饅頭があってさ―……
と燕青は事の次第を話した。
「ごめん。マジ勘弁。あんまり食が良いもんだから、つい食わせ過ぎちまった」
苦笑いしながら頭に手を遣る燕青を静蘭は呆れ果てた目で見やった。
(……コイツは最大級の大馬鹿だ)
ミャーミャー鳴き続ける仔猫を燕青に向かって放り投げる。
ぽすん、と柔らかい音を立てて、仔猫は燕青の掌に収まった。
「……餌代はびた一文出さんからな。お前一人で何とかしろ」
腕を組みながらそっぽを向く静蘭の言葉に、燕青はニカッと晴れ間のような笑顔を浮かべた。