short novel.
□◇第一章◇
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「――……つまり、積み重なる縁談を何時まで経ってもことごとく蹴ってきた君に業を煮やした紅家が、君に黙って婚姻を結んでしまった、と」
楸瑛は今までの話を要約した。
ここは王の執務室。
楸瑛が衰弱(?)した絳攸と共に転がり込んでから大分経っていた。燦々と降り注いでいた日光が西に傾き始めている。
広大な部屋の中央を陣取る机子には空になった酒瓶がうず高く積み上げられていた。
その机子を囲むのは楸瑛、絳攸、そしてこの部屋の主。もとい、この朝廷の主。
執務中にいきなり乱入してきた客に彩雲国国王・紫劉輝は怒るどころか、嬉々として招き入れたのだった。
血走った目で酒瓶を睨み付け、グビグビと喉を鳴らしながら絳攸がやさぐれたように杯を煽る。
ものの三秒も経たないうちに杯の中身は瞬く間に消えた。
そんな絳攸を横目で眺めながら楸瑛は額に手を当てた。
「……全く……元は君が悪いとはいえ、紅家も強引な事をするもんだねぇ……主上はどう思います?」
それまで青い顔で話に聞き入っていた主君に話題を振る。
劉輝は腕を組み、深刻な面持ちで呟いた。
「……暫く見かけないと思っていたら、そのような事が起こっていたのか……」
「暫くお側を離れた上、突然押し掛けて申し訳ありません主上。何しろ絳攸が今にも池に飛び込みそうな顔をしていたもので……主上を差し置いて訳を聞くのは如何なものかと」
「うむ。気にしなくても良いぞ楸瑛。久し振りに二人に会えて余はとても嬉しいのだが……心配なのは絳攸だ」
劉輝は気遣わしげに絳攸を見やった。
「ひどい落ち込みようではないか」
「まぁ、絳攸もとっくに結婚していても良い年齢ですし。紅家が選んでくれた女性なら、非の打ち所がある筈も無いですし……私としては別にそんなに悪い話ではないと思いますよ」
「余もそう思うぞ」
人の事を言えない結婚適年代の青年二人が、全く他人事のように勝手に話を進める。