Monsterシリーズ

□明日の記憶
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「おいで?ほら。よぉーい、どんっ!」

 呼ばれて俺は笑顔になって走り出す。

「おーいっ、とんっ」

 トットットと庭の芝生を走っていたらコテンっとこけて、ぶつけた膝の痛みに涙が出て来た。

「ふ、、、、わあああっ、ええっ」
「大丈夫?かいとっ?」
「ママ、、っひ、、いたいよぉ」

 ぼろぼろと溢れる涙をママの服で拭って俺は泣いていた。

 …………あれ?
 ママ? 
 かいと?

 俺は牧田和義だ。母親をママと呼んだ事は無い。

 ……もしかして、また、夢?
 結城さんの夢?

 ふえっふえっと泣く俺の頭を見知らぬママ(だろう女性)がそっと撫でている。俺じゃなくて、結城さんだろうけど。

 ママの手のぬくもりに涙が止まりかけた頃、周りがふわっと明るくなり白い霧にまぎれるようにママはいなくなった。


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「パパーっ。ごはんーーーっ」

 俺は走って家に戻っていった。

「ほら、用意できてるよ。ケーキ二つ。これはママの。で、これは絵都の7才お祝いケーキ」
「ちゃんと7本ろうそく立ててくれた?」
「ああ、数えてみなよ」
「1、2、3、4、5、6、7!パパかんぺきっ」
「だろーっ、さあ、ご飯食べたらケーキ一緒に食べようね」
「あ、パパ。ママの写真、持って来なくちゃ」
「ほんとだ」

 パパはそう言ってリビンクのピアノの上にあるママの写真をテーブルに持って来た。


「いただきまーすっ」

 パクパクと用意されたビザを食べ始めた俺、じゃなく絵都くんはパパに話す。

「さっきね、庭でお兄ちゃんに会ったよ。その人ね、ママの死んだ日知らなかったよ」
「ん?知らない人?」
「うん、知らないお兄ちゃん。でさ、おどろいてたよ。お祝いするって言ったら。その人、誕生日とママの死んだ日にお祝いしたことないのかな?へんな人ーっ」

 パパはにこりと微笑む。

「ママの死んだ日はね、大切な日だよ。ママが生まれた日と同じくらい大切な日」

 うんうんとうなずいてパパを見る絵都くん。

「ママが新しい人生を歩み始めた日だから、お祝いするんだ。ママおめでとう、今までありがとう。これからもずっとママの事忘れないでいるよって。パパと絵都はずっとママが好きだよって約束する日」
「うん、もう知ってるよ。ママの事、好きだもん」

「あれ?絵都、なんで泣いてるの?」
「え?あれ?なんでかな?目にゴミが入ったのかな?」

 ふいにこぼれて来た涙にちいさな絵斗くんは驚いて拭き取っていた。

 いや、泣いていたのは結城さんじゃない。

 彼の中にいる、俺だった。

 知らなかった……
 命日は墓に手を合わせ、冥福を祈り、しんみりと地味に過ごすのが当たり前だと思っていた。
 だけど、結城さんのお父さんは祝っているんだ。
 それは、息子の誕生日と命日が重なった為なのかもしれないけれど。

 このパーティーには妻と子供に対する、父の愛しい想いが溢れていて、俺の胸は熱くなった。


 そのうち目の前が涙と霧でかすみ、また何も見えなくなって来た。


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「んっ、、、な。。。に。。」

 苦しいっ
 誰かが俺の身体を羽交い締めにしている。

「結城、おれ、もう、我慢できないっ」

 そいつが服の下にまで手を入れて体を触り始めた。

「ちょっとっやめてよっっ」
「だから無理っ、オマエが欲しい」


 どんどんエスカレートしていくその手の動きがものすごく気持ち悪くて、本当にやめてくれっと叫びそうになった時、フワッといい香りがしてきた。

 何この匂い・・・・?
 おいしそう・・・・・

 そう思った瞬間、俺(絵都くん)は彼の首にかぶりついていた。


 口の中に広がる甘い味。
 なんだ・・・・?
 ジュース?

 いや、違う。
 これは、結城さんが味わう人の血の味なんだ。。。。

 こんなに。。。。甘いの?


 そして、それが彼から出なくなるまで飲み続けた。


「ふぅ。おいしかった。。。え??」

 目の前にいる中学生。。。

 それは、もうミイラのようで、確実に命の灯火は消え失せている事が明かに見てとれた。
 そして、拭いて来た風の力でくずれて粉々になったんだ。

 すると目の前が真っ暗になって……


 次に目を開けた瞬間、


「あああああああっっっ!!!!いやだああ!!」

 あまりの悲鳴に飛び起きた。


「あ、、うっ、、いやあああっっ!!」


 部屋中に結城さんの叫び声が響く。


「結城さんっ結城さんっ!!しっかりしてっ」


 俺は隣で叫ぶ結城さんを力の限り抱きしめた。涙で顔中が濡れて叫ぶ結城さん。

「いやっっ!いやっ!もういやだあああっっ、、誰も食べたくないっっっ」
「結城さんっ結城さんっ、大丈夫っ、俺以外、食べなくていいからっ」
「ああ、、、っ、、マキッ、、うぁっ、、マキっ、、マキもッ食べないっっ、ッもう、食べないっ」
「結城さん・・・・・ 」

 俺にしがみついたまま、食べないと、ただ繰り返す。

 そんなに。。。ショックだったんですか?
 あの、誕生日兼命日パーティーの屈託の無い笑顔が、こんなに曇ってしまって・・・

 だからなんですか?
 誕生日だって教えてくれないのは。

 彼への罪悪感にさいなまれて、お祝いできなくなってしまったんですか?


「結城さん、あなたは栄養をとっただけです。だから、泣かないで。。。」

 何の慰めにもならない言葉を俺は口にする。
 結城さんは、頭を横に振り、ヒックヒックと泣き続けていた。
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