Monsterシリーズ

□君がいいんだ
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運命なんだ

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 ひよことお別れして、もう一週間たった。コーヒーショップ店員の相川さんがもらってくれたんだ。少し寂しかったけど、いっぱいかわいがってくれるって言ってたし。きっと、ステキなニワトリになるよね。
 短い間だったけど、マキと一緒にひよこ見てるの楽しかったし、凄く幸せな時間だったな。いつでも会いに来てって言ってくれたから、今度マキと予定組んで一緒に行こう。
 

 今日は仕事が終わったら駿の家に行くんだ。駿がね、会いたいって言ってくれてる。一週間前、駿とキスとか色々あったけど、あれから俺ずっと考えてて、そんで思ったんだ。きっと、元木さんのこと、駿も悩んで辛いんじゃないかなって・・・・・・
 うんっ。駿を励ます事が出来るなら、したいもん。いつも、俺を元気づけてくれてた駿。
 俺だって、応援してるんだよ? 駿には、幸せになってもらいたいんだ。
 でも、もうキスはしないでほしいな。だって、マキがいいから。



 夜8時になって、俺は駿の家に行った。駿と二人だけでご飯を食べたのは久しぶり。駿は料理も上手で、いつもおいしいパスタを食べさせてくれるんだ。今日は俺も手伝ったけどね。おいしくなる裏技とか教えてくれたから、今度マキにも作ってあげようかな?
 食後には、お酒も用意してくれて、ワインを飲んで、チーズを食べて、俺は、ほろ酔い気分で駿に話しかける。

「ねー、駿は恋人つくんないの? 俺ね、マキと一緒にいて幸せなんだ。俺は人間と付き合ってるけど、吸血鬼同士だったらもっと良かったのかも知んないなって思う」

 俺は、またワインを一口飲んで、駿に言った。

「だから、駿はちゃんと仲間と付き合ってね、応援してるよっ。結婚も出来ないし。マキとは」

 駿の選んだ美人な人、見てみたいなあって考えながら俺、上機嫌でしゃべっていた。駿はそんな俺をじっと見てて、俺に聞いてきたんだ。

「絵都……絵都は仲間と結婚する気ないの?」
「ないよ。マキがいいから」

 俺は素直に答える。だって、ほんとに、マキしかいないんだよ。そしたら駿が言った。

「俺は、ちゃんと吸血鬼のひとが好きだよ」

 その思いがけず教えてくれた秘密に、俺興奮しちゃった。
 
「そうなんだッ! だれっ? 教えてよ駿っ」

 駿は沈黙して、ワインをあおる。そして、俺を見てくれた。俺はワクワクして駿の言葉を待ったんだ。

 だけど……

「目の前にいるよ」
「え?」
「絵都、おまえだよ……絵都が、好きだ」

 その信じられない告白に俺は驚きすぎて、ただ口を開けて駿を見つめるしかなかった。そしたら無言になった俺に駿が覆いかぶさってキスしてきたんだ。

「んっっ、、、、んぅっっ!」

 やっやめてっ

 体をよじったけど、酔いが回ってあんまり力はいんない。俺はそのままソファに押し倒された。

 っっ駿!!

「んっ、、、、、ふっっ、、や、、ぁぁ」

 激しいキスといっしょに駿の手のひらが服の隙間から入ってきた。体中に嫌悪感が走る。

 いやだっ!

 押しのけようとしたら両手をつかまれて腕を頭上に持ち上げられた。ふわっと乳首に指がさわってく。

「はっ、ああっいやぁっっ」

 
 やっ! マキ以外の手でさわられたくないっ

 服をめくり上げられて、駿が着てたシャツを脱ぎ捨てて俺を抱きしめてきた。肌がふれあって彼の体温が直に伝わってくる。

「駿っ!! やめっってっ!」

 いやっ嫌なんだっ!
 マキ以外の体を感じたくないっ!

 やめて!!!!  

「いやだああああっっ!!」

 叫んだら涙が出てきた。

「ひっ、、し、しゅん。うくっ、、やめてっ おねがい、、、」

 そしたら駿の体が、俺からそっと離れて。
「絵都、、、ごめんっ、、、」
 泣いてる俺を、優しく抱きしめて謝ってくれる。

「ひっく、……駿……っ」

 優しい駿、だけどこんなことするくらい、俺のことが……好きだったの?

 でも駿が、どんなに俺のこと好きでいてくれても
 俺は、マキがいいんだ。
 マキじゃなきゃ、だめなんだ。

 俺が触ってほしいのも
 俺がセックスしたいのも
 マキだけなんだ

 きっと、ずっと、マキだけだよ

 俺の命が尽きる時まで
 俺はマキの事が好き

 それまで、マキの横で
 マキと手をつないで
 一緒にいたい


「ごめん、駿……」

 彼に、それしか言えなかった。

 駿と恋に落ちてたら、きっと幸せだったと思うよ
 でも、俺
 駿と恋に落ちていても、マキと出会ってしまったら、マキに恋しちゃうと思うんだ。

 運命なんだ・・・
 マキと出会ったのは・・・
 マキに恋したのは・・・・

「ごめん……もう絵都のことは、これで最後にするよ。だから、今まで通り俺と仲良くして? 俺は、従兄弟だよ。ただの従兄弟」

 精一杯の優しさで、駿が言ってくれた。

「うんっ、駿は俺の自慢の従兄弟で……っ大好きな家族だよ。っく……だからいつもみたいに……ひっ、俺といっぱい、遊んで、いっぱい……っ楽しいこと、しよ?」

 泣きながらだったけど、俺も、精一杯、彼に答える。

「絵都、覚えてる? 俺が14の時、初めて人の血を吸っちゃったときのこと」
「……うん」

 駿の穏やかな、だけど切ない声に、思い出が蘇る。その思い出は俺と駿だけの、秘密の思い出。マキにも教えてない、辛い秘密の思い出。

 それは駿の誕生日8月1日の3週間後だった。あの夏の日の夕方、駿と俺は残暑のせいで人気のない近所の公園でボール投げして遊んでた。俺投げたボールが公園の端にある土管の裏まで転がっちゃって、駿がそれを取りに行ってくれたんだ。だけど、5分しても帰ってこないから俺、遅いなって思って見に行った。

 そしたら駿は、知らないオジサンの首筋にかぶりついて血を飲んでた。血を飲む快感に取り付かれてた駿は俺が『しゅんっしゅんっ!!』って何度呼んでも気付かなかった。最初は多分オジサンが駿の吸血鬼の魅力に狂って襲ったんだと思う。まだ14になったばかりの駿は人を襲うやり方を知っててもまだ実践なんてしたことなかっただろうから。

 だけど俺が見つけたときにはもう、オジサンは虫の息で。このままだと駿は俺と同じ殺人犯になっちゃうと思ったんだ。
 そうなるのだけは俺絶対いやだ! って思ったら、勝手に体が動いてた。

 そして俺が……オジサンを、殺した。




「あの時、絵都が俺をオッサンから力一杯引きはがしてくれたこと、俺今でも覚えてる。その後の絵都の言葉も姿も、全部」

 駿は、そういって笑った。

「絵都、凄い綺麗だった。あの時の絵都より美しい人をを俺はまだ見たことないよ。俺、あれからずっと、絵都のことが好きだったんだ。俺まだガキだったしきっと、絵都の吸血鬼としての能力に惚れてただけなのかもな」

 ハハハと笑う駿を俺はぎゅっと抱きしめた。
 その思い出は俺にとっても駿にとってもとても辛いもので、悲しくて、どうしてイイか分からなくて、俺はまた涙が出てきてしまった。だけど、俺たちはそうやって人を狂わせて血を飲まなきゃ生きていけないんだ。この能力を否定してしまうのは、俺たちの死を意味するんだから。
 

「駿、……っ。駿は俺よりも凄い美人で綺麗だよ。それにカッコいい。俺、いつも駿のこと自慢だった……駿にマキを捕られたらどうしようって思うくらい、駿のことすごいって思ってる」

「あはは、マキなんて興味ないよ俺。それにマキだって俺の姿見ても全く動じない。全然絵都には太刀打ちできねぇよ、14の時からずっとな。だから俺が絵都好きなのも、ただの嫉妬かも」


「駿……っ」
 
 今腕の中にいる駿は、14の時の俺より小さくて俺に守られてる彼じゃなくて、大きくてたくましくて、あの頃とは逆に、俺をいつも守ってくれる大切な家族。

 でも駿はそんな小さな頃から俺のこと好きでいてくれたんだ。なのに俺は、俺は……っそんなこと気付きもしないで……っ。

「ガキの俺に『こいつは俺の獲物だから、駿は黙って家に帰れ』って言い放った絵都、すげえ綺麗だった。余りに綺麗すぎて動揺して俺、走って逃ちゃったんだよねぇ。俺臆病者だな」

 駿はそんな風にごまかして、「マキん家、帰りなよ」って俺の腕をほどいた。このままいるなら、ホントに続きしちゃうよ? って笑って。

 それは駿の限りない優しさで、俺はもう、どうしようもなくて。

「駿、好きだよ。大好きだ。これからもずっと」

 それしか、俺言えなかった。そして駿の家から飛び出したんだ。
 
 分かってる。俺はうそはつけない。駿のことが好きだけど、でも俺が本当に欲しいのは、そばに永遠にいて欲しいって思ってるのは、駿じゃない。


 どうか、駿に
 笑顔が戻りますように……

 俺は祈った。駿の悲しみを俺は癒せないから、祈るしかできなかった。


 誰か、彼を癒してあげてください
 元木さん……あなたなら癒してくれる?

 お願い、駿のそばに、いてあげて

 俺は、マキしか、いないから……


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