Monsterシリーズ
□君がいいんだ
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速度を上げていく【マキ】
☆☆☆☆☆
「あ、課長お帰りなさい」
会議に出席していた課長が戻ってきた。
俺はせわしなくキーをたたきながら、新しく出来た部署で使用するデータベースのシステム設計をしている。
「そのデータベース、今月末までが締め切りだから、出来るなら来週末までに提出してくれよ。俺のチェックの時間も欲しいから」
「はい、分かりました」
仕事は、何かと増えていく。
セキュリティの管理以外にも、各部署のデータベースや会計処理などのシステム開発も俺の仕事だ。基本的にコンピュータを使用して行える事のシステム開発はほとんどがうちにやってくる。
しかし、会計処理システムもデータベースも各部署で全く仕様が異なるから、作るのもそれなりに時間がかかる。外部に委託しても出来るが、せっかくコンピュータ専門の部署があるのだからと、社長がセキュリティ以外でも何か作ってみないかと持ちかけてきたのがきっかけで、それからあれもこれもと引き受けていると仕事の量が以前よりかなり増えてきた。
それはいい事だから嫌ではない。でも本当は、仕事は待ってるものではなく、自分で見つけてするものだ。やってくる仕事はきちんとこなして、新しい仕事も自分で見つけたいと思っている。だが、俺はまだそこまで余裕がない。
それは勉強不足、経験不足だから。今はやってくるものだけでいっぱいいっぱいだ。
「牧田は仕事熱心だな。少し休憩したらどうだ?」
珍しくいたわりの言葉が課長の口から出てきた。
「ええ、じゃあココアおごってください」
「そう来るか、ま、いいだろ」
課長は内線でコーヒーショップにカフェラテとココアを注文していた。
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、俺はまた画面を見ながらカタカタとキーを叩いた。仕事をいつも完璧にこなしていく課長からしたら、俺なんてまだまだ若輩者だろうな。なんて思いつつ。
ーコンコン
しばらくしてノックの音ともとに相川さんが入室してきた。
「ご注文の品、持ってきました」
「ありがとう、ソコに置いといて」
「相川さん、間違えてないですか?」
「牧田さーん、またそう言う事言うっ。大丈夫ですよ」
「それは、良かった。あそーだ、相川さん、動物好きですか?」
適当に彼に謝った俺は、昨日聞きそびれたひよこの事を彼に尋ねる事にした。
「ええ、大好きですよっ」
「それは良かった。実は、ひよこをもらってくれる人を探しているんです。飼いませんか?」
「ひよこ!? 飼ってると、もしかして、ニワトリになったりするのかな。。??」
「……ひよこは、ニワトリのひなですから」
相川さんの一言に、ちょっとびっくりした。まさか、ニワトリのひながひよこだと知らなかったのか、と一瞬考えて、まあ、そういう人も世の中にはいるのかもしれないと思いなおし、笑顔で流した俺。
「うーん、どうしよ。欲しいけど、ちょっと考えるよ、また返事は後日でいい?」
「ええ、お待ちしています。ちなみに2羽いますので」
「了解。では、お買い上げありがとうございました。失礼します」
カチャっとドアを開けて彼は出て行った。
「飼い主、まだみつかんないんだな」
「ええ、ひよこなんて、欲しい人、なかなかいないでしょうしね」
俺は課長にありがとうございますと、お礼を言ってからココアを手に取った。
「お前の飼ってるニワトリから生まれたのか?」
「いいえ、公園の前に捨てられてたんですよ。結城さんが見つけてきたんです。でも、うちはペット禁止のマンションですし、俺も世話はちょっと無理だと思いましたので」
動物は嫌いではないが、俺のように24時間不定期に仕事をする身ではペットなんて飼うだけ負担がかかる。
せいぜい熱帯魚程度が限界だろう。
「そういえば、さっき結城くんに会ったぞ」
え? 結城さんに。。?
「そうですか、彼はあちこち掃除して回ってますからね。たまに巡り会う事もあるでしょう」
「彼も駿と知り合いだったんだな。知らなかったよ」
「彼らは従兄弟同士ですからね。俺もそれくらいしか知りませんけど」
結城さんも希山さんもどちらも自分の事を必要以上話したりしないんだな。きっとそれは、彼らが人間じゃないからなんだろうけど。。。
希山さんを思い出すと、すぐあの時の課長の瞳も一緒に思い出してしまう。今はいつも通りの課長だけど、あのとき一瞬だけ見せた苦しいくらいの恋心。
あの想いを、希山さんは知っているのかな?
何だか希山さんから聞きたくなってきた。課長をどう思っているのか。
しかしソレを聞いたところで、俺がどうこうできるようなものでもない。それに只の興味でしかない質問は、失礼にしかならない。
そして、もしも俺が彼らに何かできるとしても、そんな事課長は望んでいないだろう。彼は、自分ですべてを決断して進んでいく男だから。
「あ、牧田、今日一緒にメシでも行かないか?」
え?
それは唐突な一言だった。
これは、非常に珍しい。食事に誘われるなんて。
プライベートでは彼にほとんど会ったことはない。何か話したい事でもあるのだろうか?
不思議に思いながらも、俺はOKの返答をする。
「ええ。いいですよ」
「じゃあ、仕事終わったら行くか、俺はイタリア料理が食べたいからそれでいいか?」
「はい、俺も好きですし。きっと課長の贔屓のお店は絶品でしょうね」
「あ、もうこんな時間か、次の会議あるし、行くわ、じゃな」
「いってらっしゃいませ」
課長はさっと出て行った。