寄り添い花シリーズ
□寄り添い花
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奏太『幸福の飛来』
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「き、りし、ま......」
泣いている桐島に声をかけたのは、どのくらいたってからだろうか。
奏太は、桐島の泣いている理由を決めかねて戸惑っていた。
父は桐島に言った。
『お前はもう執事じゃない。仕事から解き放たれたんだ。だから、お前の好きにするがいい』
そして父は、この間の嵐の日、『執事は家族じゃない』と泣く奏太にこんなことも言った。
『お前はもう15だ。傍にいる人間は自分で選べ。執事も、恋人も。決められた道を進むのはバカな人間のやることだ。私もお前の母を選んだのは15の時だ。あの選択は今でも間違ってはいないと思う。たとえ短命だとわかっていたとしても、彼女は私にとって最高の妻だ。そして唐沢も、私が自分で選んだ執事だ』
父の言葉は、深く胸に刺さった。
これまで、自分は不安ばかりで、ただ桐島に抱けと迫っただけ。自分付きの執事と言う彼の立場に甘えていただけだった。
『奏太、情報を得てから決断までの時間は、早ければ早い方がいい。上に立つものとしての心得だ。迷いは疑心暗鬼を生む。不安を増大させる。そして何より勝機を逃す。いつまでも迷うな。誕生日が期限だ。桐島を執事として傍に置くのかやめさせるのか、しっかり考えて決めろ』
今、決めなきゃ、そして伝えなきゃ。
桐島が、ボクのことをどう思っていようとも、ボクは……
☆
温室の土の上に膝を折り、口を押さえて震え泣く桐島の傍に立った奏太は、ゆっくりと言葉を発した。
「パパが来たから、桐島はもうボクの執事じゃなくなった。だから、ボクの傍にいる必要もない。お前の仕事は終わったんだ」
ねえ、桐島?
その涙の訳、教えてよ。
何で泣いてるの?
教えてよ。
「でもね、桐島......ボクは、」
声が、震えた。でも、伝えなきゃいけない。
今日しか伝えられないから。もう、桐島はいなくなるんだから。
「桐島とキスしたメイドに嫉妬した。桐島に抱かれたメイドに嫉妬した。そして、お前に抱かれて......嬉しかった......幸せだった」
涙がこぼれた。
ああ、ボクは
こんなにも、お前のことが......
「好きなんだ、桐島」
その言葉に、ビクッと桐島の体が震えた。
そして、涙に濡れた顔がゆっくりと上を向く。
「かな、た......さ、ま......っ」
待っていても手に入らない。
花言葉みたいに幸せは飛んでこないから。
家族じゃない桐島は、待ってても父にも母にもならないし、手に入らない。
でも......
嗚咽に揺れる声で、奏太は強く言った。
「......っ桐島、傍にいろ。お前はっ、ボクの傍にいろ。執事かどうかなんて、関係ない。......毎日ボクにっ、キスして、っ好きと言って、抱きしめるんだ」
ボクが欲しいのは、優しく愛してくれる家族じゃない。
狂うくらいにボクに執着するお前。
涙をグイと手の甲で拭い、奏太はしゃがむ桐島に右手の平を差し出した。
今の桐島は奏太にとって、花から変化し、彼方に飛んでいこうとする大きな蝶。
「ボクはお前が欲しい。お前の全部、ボクのものになれ」
失いたくない
ボクの幸せの花を
このまま、蘭のまま、傍に留めるんだ
ボクの傍で、お前は咲いて笑うんだ
伸ばされた奏太の指先に、桐島の指がそっと絡んだ。そして、濡れた顔がその指先の爪に引き寄せられる。
「仰せの、ままに」
小さな声で呟いくとともに、爪に口付けをした桐島。
「わたくしのすべては、......あなたのものです」
爪の口付けは崇拝を意味するのだ。
今、桐島は奏太に跪くことを選んだ。
それを理解した奏太は、しゃがむ執事に勢いよくしがみついた。
「きりしまっ、きりしまぁ......っ」
「奏太、さま......申し訳、ございません」
「謝るなっ、」
「......あなたと出会ったときから......わたくしはあなたの虜でした」
幼い頃から自分を数え切れないほど抱きしめてくれた腕が、再び奏太をしっかりと包み込む。
「......これまでの数々のご無礼、おゆるしください......っ」
「許さない、お前は、絶対許さない。だから、ずっとボクに仕えろっ」
「はい、......っ」
この腕にいるのは、これからも自分だけ。この男は、ボクのものなんだ。
「桐島........っお前だけ......っボクがキスしたいのは、お前だけっ......桐島ぁ、っ好き、ボクのそばを、離るな......っ」
「かなた、、、さ、ま」
桐島は、愛しい主の体を折れそうなほどに抱きしめた。
「奏太さま、お許し下さい......お許し下さい......」
「謝るなっ、お前は、もっと違うことボクに言わなきゃなんないんだっ」
涙を流して奏太は執事を責める。
「好きです。大好きです......あなただけ、本当に、あなただけです。奏太さま......心から、お慕いしております」
「好き?ボクのこと、すき?」
「はい、っ、大好きです。誰よりも何よりも、あなたが......」
執事が主に噛みつくようにキスをした。家族には絶対しないキス。
苦しくて愛しくてオカシくなるキス。
奥まで舌を差し入れて、絡めたそこが震えて、切ない喘ぎ声しか出ないようになるまで交わるキス。
「は、あ......っ、ぁ......っ」
熱く濡れた息が奏太の唇からこぼれた。
「仕事じゃ、ないんですっ、あなたを仕事で、抱きたくなかったっ」
苦しそうに吐きだしたその言葉に、奏太は目を見開く。
それは自分の想いと全く一緒だった。
何度も思った。
仕事でしかない行為が、愛を伝えるのもであったならと。
「ボクもだっ、桐島ぁ、抱いてっ、いますぐっ」
我慢が出来なくなった奏太が、桐島のメガネを投げ捨ててベルトに手をかけた。
「奏太さまっ、こんなところではっ」
戸惑う執事とは裏腹に、性急な欲望に耐えられず、奏太は叫んだ。
「あの花言葉は嘘なのかっ!? ボクを愛するんじゃなかったのか!?」
主の声に、桐島は肩をふるわせた。彼の瞳には奏太と同じ欲望がギラギラと光っている。
「あぁ……奏太さま、わたくしは……あなたを愛しています」
それを見た奏太は嬉しそうに微笑んだ。
桐島、お前はボクのそばにいるんだ
そして、
ボクを見て
ボクに欲情して
ボクを思い切り抱きしめて
奏太を抱え上げた桐島は傍のベンチに座り奏太を自分の足を跨ぐように座らせると、奏太の服をはだけさせ、あらわれた肌にキスを落としていく。
ズボンを脱がして前と後ろの秘部を優しくまさぐっていく桐島のじれったさに「桐島っ、来てっ」と奏太は訴えた。
「まだっ、このままではあなたが痛い思いをされます」
いつでも奏太を守ろうとする桐島に、しかし主は首を振り、強い声と視線で命令する。
「早く来いっお前が欲しいんだっ」
「奏太、さまっ」
逆らえず桐島は己をあてがうと、奥へ押し込んでいく。
「つっうああっ!」
痛みに顔をしかめたが、それよりもつながったことの喜びの方が何倍も大きかった。
「お許し下さいっ」
「いいのっ、うれしいっ」
抱きしめるその腕の中で奏太は笑う。
キスもセックスも
なにもかも、許可なんていらない
いつでもして
ボクを求めて
奏太を揺らしながらキスをする桐島が「これからも、お傍にいさせてくださいっ」と何度も呟いていく。
「あんっ、ボクをっ、離すなっ…っぁあっ」
「はいっ……あなたをずっと……愛しますっ」
体を満たしていく甘い快楽、そしてそれ以上に甘い言葉に、目眩がした。
何度も揺らされて、息があがるが、奏太は必死で桐島にしがみつく。
そして、二人の熱が同時にはじけた瞬間、今まで感じたことのない幸福に、満たされた。
「ぁんっ……っぁあっ……!」
手に入れた
ボクは、手に入れたんだ
「奏太さま……、愛してる。あなたを……あなただけを」
荒い息の隙間、耳に、甘い甘い言葉が再び届く。
それは、至極の誕生日プレゼント。
『桐島』と言う名の
いつも傍に寄り添い咲き続ける『花』
飛んでこなくていい
幸せは自分でつかむから
そしてもう、ここにあるから
「桐島、今日からお前は、ボクの執事で、ボクの恋人だ」
汗と涙で濡れた顔で笑った奏太は、幸せを逃さないように、桐島をもう一度キツく抱きしめた。
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