Monsterシリーズ

□Monster
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ドキドキの理由

☆☆☆☆☆


 危なかった・・・・・・

 エサの肉を食べてるチーターみてたら、つい「美味しそう」なんて呟いてしまった。

 だからあわてて次のとこ行こうって、駆け出しちゃった。
 だって、ほんとに美味しそうに食べてたんだもん。
 俺は、血を吸うだけだけどさ、でも、あんな赤い色見たら、興奮しちゃうよね。

 あれが、マキの血だったら、どんなに、美味しいんだろう。
 考えるだけでドキドキする。

 今、ぎゅってマキが俺を抱き締めてるからすごい近くにマキの首があるんだ。

 ああ、飲みたい・・・・・・

 俺は手を伸ばしてマキの首にしがみついて、そこにチュッとすいついた。

「っ、結城さんっ」

 マキがあわてて俺を引はがした。顔が、赤い。
 
「何恥ずかしがってんの? 俺にさっきキスしたのマキじゃん」

 マキが照れてる。
 可愛いな。

「いこっ」 

 彼の手をひっぱって、俺は次の所へいく。

「ここは、昆虫館ですか」

 昆虫がいるとは思えないような綺麗なレンガ作りの建物に俺たちは入った。

 中にはガラス張りの水槽みたいなのが一杯あって、その中にいろんな虫がいる。
 
 アリ。ハチ。バッタ。コガネムシ。カミキリムシ。

 名前は知ってても、いっぱい種類がいるんだね。大きいのとか、変な色とか、足がすっごい長いのとか、いっぱい。

 ああ、今度は蝶だ。

 俺に似てる黒いアゲハチョウもいるかな?

 俺はキョロキョロと蝶のガラスケースをのぞいていく。

 小さな小さな茶色い蝶や、海を渡って移動をする蝶とか、たくさんいた。

 アゲハチョウ、どこかな?

「綺麗ですね。ほら結城さん、こちらはモルフォチョウですよ」  
「モルフォチョウ?」

 マキの声に振り向くと、そこには、青色のきらきらした蝶がいた。
 
「わあっ。すごいっ」

 青色がきらきらしてて、七色に光ってるって言うか、メタリックって言うか。すごい綺麗だった。

「モルフォチョウには、タイヨウモルフォという青く光らないものもいるんですよ。ああ、こちらですね」

 マキが指さした先には、青くはないけどとても綺麗な羽の蝶がいた。
 羽の外側は黒や茶色で、中心に向かって白やオレンジ色のメタリックな光沢を放っている。

「はあー、ほんとに太陽の光を集めたみたい」
「タイヨウモルフォチョウはモルフォチョウの中でも最大のものです。でも、モルフォチョウはこんな綺麗な体していますけど、花の蜜よりも、腐った果実とかキノコとか動物の死骸が好きなんですよ」
 
 前に結城さんの帽子にとまった黒アゲハの方がぜんぜんきれいですよね、なんて、マキはにっこり笑って言った。

 ・・・・・・俺、黒アゲハが仲間だなんて思ってたけど、実は、モルフォチョウかも。

 見た目は綺麗で。いや俺を綺麗だと人が思うのは俺が人間じゃないからだけど。
 俺は人を虜にするのに、食べてるものは、誰も食べないようなものばかり・・・・・・

 だって、吸血鬼
 人の血を、飲まなきゃ生きていけない体

 人は、ごはんだもん

 今だってマキの血が欲しくて、マキの隣にいるんだから

 
 ああ、マキ
 早く飲ませてよ
 そしたら、マキから離れられる

「昆虫館はもう終わりのようですね」

 マキが出口のドアを開けて待ってる。
 開けられたドアから、まるでモルフォチョウの羽みたいにまぶしい太陽光が差し込んできた。

 俺は、あんな明るいところは歩けない。
 いつも帽子をかぶって、人目を避けて、決して誰にも気付かれてはいけない。
 俺は、自分の帽子を深くかぶりなおして、ゆっくりとマキに近付いた。

「もうそろそろ、おうち帰りましょうか。たくさん見ましたし」
「うん、帰ろっ」

 俺は、マキにだけにっこりと笑いかけた。 
 マキも俺につられて、にっこり笑う。

 マキの笑顔、すごい綺麗だね。
 みんなに、こんな素敵な笑顔見せてんの?
 でも、俺が笑いかけるのは、獲物にだけだよ。
 獲物を狂わせるための、俺の顔だから。

 ああ、マキといるとすっごい楽しいけど、でも、早くのみたい。
 マキ見てると、体がおかしくなるんだ。

 なんかドキドキする。
 苦しくなる。
 それはきっと、血が欲しくて仕方ないせいだと思う。

 こんなお預け、初めてだもん。
 今までねらった獲物は、いつもその日のうちに食べてたのにさ。

 マキとのセックスも、すごい気持ちいいけどやっぱり、飲みたいな。

 マキの血、早く飲みたい。

 ドキドキで苦しいから
 マキといると・・・・・・ 
 


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