Monsterシリーズ

□Monster
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あなたの真実

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「はっ、、はっ、、ぁ」

 俺は乱れた呼吸をしながら、意識を失った結城さんにキスをした。

 ごめんなさい
 あなたを襲ってしまった

 あなたが・・俺に求めている事が聞きたくて・・・
 こんな事するつもりじゃなかったのに・・・

 もっと優しく抱いてあげれば良かった。
 あなたを、泣かせてしまった。

 あんな行為で俺は、結城さんから何を聞き出そうとしたのか。

 彼の口から聞けたのは

 好き。
 一緒にいたい。
 俺への想いだけ。

 彼は泣きながら気持ちを伝えてきた。

 あなたの望みは、本当にそれなんですか?
 今まで、ずっと一緒にいましたよ。
 でも、今のままだとあなたは、いつか旅立っていくんですよね。

 もっとほかに、俺があなたに出来る事があるんですよね?
 それは、、一体なんなんですか?

 意識を失って、そのまま眠りへと誘われた彼をみながら、俺は仕事のファイルを手に取った。
 眠れないから仕事をして気を紛らわすしか無かった。


ーリリリリリリリリリ

 目覚まし時計が鳴っている。
 結局一睡も出来ずに俺は朝を迎えた。
 7時半。
 目覚ましがなっても、結城さんは起きない。

 「結城さん、起きてください」
 鳴り響く時計を止めて、彼を昨日と同じように何度も揺り起こす。だけど彼は起きない。 
 ざわざわと、胸に不安が渦を巻く。
 俺は8時にもう一度結城さんを起こした。

 でも、やっぱり彼は起きない。

「結城さん! 結城さん! 結城さん!・・・ゆう、き、さん。。」

 何度呼んでも揺らしても、彼はぴくりとも動かなかった。規則正しい寝息をたてながら気持ち良さそうに眠っている。

 コワい・・・・・・
 ユウキさん・・・・・・
 メを、アけて・・・・・・

 恐怖とは、こんなにも緩やかに、人間を追いつめていくのかと、俺は吐きそうな気分で口元を手で押さえて、彼を見つめた。


 俺は仕事に行く事も出来ずに彼が目を開けるのを待っていた。しかし待っても待っても、彼は起きなかった。

 眠る彼にそっと触れてキスをする。
 ぎゅっと抱きしめる。
 あったかい。
 胸は規則的に上下している。
 生きている証拠だ。

 だけど目は閉じられているんだ。
 このまま呼吸まで止まってしまったら。。。。


 もう昼の12時だ。
 俺はいまだ何もせず彼の隣にいる。
 いつか目が覚めなくなってしまうって、、、この事だろうか?
 もしかして、死ぬまで、眠り続けるんですか?
 結城さん、目を、開けて下さい
 あなたを、失いたくない
 失いたくないんだ
 苦しくて、胸が、苦しくて・・・・・・
 怖くて、怖くて・・・・・・

 俺はだれかに助けを求めたくなった。

 不安で、どうしようもなくて

 彼を、目覚めさせる事が俺には出来ない
 誰か
 ・・・・助けて


 脳裏に思い浮かんできたのは希山さんだった。あの人なら、何か分かるかもしれない。昨日の彼の口ぶりから彼は結城さんの望みを知っていると感じていた。彼からしか、聞けない。それに結城さんにはきっと彼以外親族はいないだろうから。
 俺は結城さんの携帯電話を取り出した。
 本当はこんな事したくないけど……ひとの持ち物を勝手に触るなんて。

 携帯の電話帳から希山駿を探し出す。そして、発信ボタンを押した。

ープルルル プルルル プルルル

 数回機械音がなって電話が彼に繋がった。

『もしもし? どうしたの? 絵都』
「すみません。牧田です。結城さんの電話からかけてしまって申し訳ありません」
『・・・・絵都に、なにかあったの?』

 彼は俺がかけてきた事で、今の結城さんの状況をある程度想像出来ているようだ。

「はい。結城さんが目覚めません。。。俺は、何も出来なかった。。。」
『どこにいるの? 今から行くから』

 俺は彼に家の住所を教えて電話を切った。

 結城さん、、
 ・・・何が望みだったんですか?
 眠りから、目覚めるにはそれが必要なんですよね?
 どうして。。。何も言ってくれないの?



ーピンポーン

 しばらくして、インターホンが鳴った。ドアを開けるとサングラスを外した希山さんが立っていた。

「どこ?絵都」

 彼はスタスタと室内に入り、ベッドルームまで歩いていく。希山さんの大きな瞳が結城さんの寝ている姿を捉えた。
 ベッドに近づいた彼が結城さんに声をかける。

「絵都、起きて、絵都」

 ゆさゆさと結城さんを揺さぶっているが全く動く気配はない。
 しばらく結城さんを見つめていたけど俺に向き直って彼は言った。

「包丁ある?ナイフでも良いけど」
「ありますけど。。。何を。。」

 思いがけない要求に俺は驚いた。
 一体何に使うのだろう。

「絵都を刺すわけじゃないよ。心配しないで」

 俺はキッチンから果物ナイフを持ってきて彼に渡した。

「ありがと」

 ナイフを受け取ってそう言ったとたん彼はそれを振り上げた。

 なっっ!!

−ザシュッ!

 血が滴り落ちてきた。


「きっ希山さん!!、、っ何を!」

 彼は自分の左腕を斬りつけたんだ。そして俺の声を無視して結城さんに歩み寄り、寝ている彼の顎を掴んで持ち上げて口を開かせた。
 血の滴り落ちる腕を近づけて、結城さんの口の中へとその赤い血を垂らしていく。
 口角から溢れるくらいまで血が口の中にたまった時。


 ゴクリ

 結城さんの喉が音を立ててそれを飲み込んだ。

 次の瞬間。

「ッゲホッ!ゲホっ!、ゴホッ、、にっっにがいっっ」

 結城さんが目を覚ました。顎を掴まれたまま血液でむせている。
 ポイッとその掴んでいた顎を希山さんが離し、結城さんの頭がフワッと枕に埋もれた。

「おはよ。絵都」

 怒りを含んだ口調で希山さんが言った。

「、、ッゲホッ。。しゅ、駿。。ンッ。苦いよ。。」
「仕方ないだろ。起こすにはこれしかなかったんだ」
「ごめん。。。」

 結城さんは布団を目深に被って謝っている。

「だいたい、おまえがちゃんと血を飲んでないからこんなことになるんだ」
「だって」
「そのうちほんとに夢から覚めなくなって、ひからびて死んじまうぞ」
「だって、飲みたくないんだもん」
「バカ、体は欲しがってんだろ?」
「飲んでも飲まなくても、マキと別れる事になるんだから、飲んでから別れろよ」
「ほら、そこにオマエのご飯の彼氏がいるから」

 希山さんは俺を指差して、俺の存在を結城さんに知らせてから「じゃな」と出ていた。

 結城さんはようやく、俺に気付いてその垂れた瞳を見開いていた。そして、その目から透明な液体が溢れてくる。

「マ、キ、ひっっ、」

 嗚咽が出始めた彼は布団に潜ってしまった。

 俺は、彼の真実を知って、胸が、くるしくてくるしくて……

 結城さん。

 あなたは、血が、欲しかったんですね。
 俺の、血が・・・


 俺は、なんて鈍感だったんだろう
 俺の血をあんなにおいしそうに舐めていたのに
 どうして言ってくれなかったんですか?
 あなたが欲しいと言えば
 俺はいくらでも差し出したのに

 血が枯渇して耐えられなくなって
 眠り続けるくらいまで
 我慢するなんて・・・
 どうして・・・

 布団にくるまった彼を見ていたら、視界が、ゆらゆらと揺らめいてきた。

 ごめんなさい、結城さん。
 気付いてあげられなくて。

 俺は、布団にくるまった彼ごとぎゅっと抱きしめた。
 俺の目からポタポタと落ちる涙で布団カバーにシミが出来ていく。

「結城さん、俺の血、飲んでください」

 好きなだけ飲んでください・・・

 今、わかりました。
 俺たちが出会ったのはあなたが血液パックの血を飲んでいたからだったんですね。

 そして
 あなたが俺に近づいたのは、俺の血を飲むため。

 だけど、あなたは俺を好きになってくれた。

 それだけで十分です。

 あなたが、このまま眠り続けるなんて
 俺には耐えられない

 あなたの中に、中に俺を取り込んでください。
 このまま命が尽きてもいい。
 あなたの中で俺は生きるから
 あなたと一緒にいられるなら

 それは
 俺にとって最高の幸せだから


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