Monsterシリーズ

□Monster
21ページ/23ページ

君のすべてを

☆☆☆☆☆


 涙が、ぶわって、溢れた。
 どうしよう。。マキに、ばれた。。。


 マキに嫌われて
 もう、二度と会えなくなるって
 もう今日で
 マキと一緒にいるのが終わりだって

 そう理解した途端
 涙が止まらなくなって

 俺は布団に潜り込んだ。


「ひっ、、マキ、、、ひっく、、マキぃ、、っ」


 マキの優しい声が
 マキの優しい腕が
 マキの優しい笑顔が
 マキの優しいなにもかもが
 もう、俺のそばにはないんだ

 マキ
 大好きだったよ

 さよなら・・・・・・だね

 さよ、なら、なんだ・・・・・・

 布団の中で、ポロポロとこぼれ続ける涙を何とかしようとしていたら、ぎゅっと抱きしめられた。

 なんで? と思ったら、マキの声が、聞こえた。


「結城さん、俺の血、飲んでください」

 なに?
 マキ?
 何、言ってるの?

 そしたら、バサッ! と、布団を思い切りめくり上げられた。
 俺は泣きながらマキを、見た。

 マキ・・・・・・も、泣いてる?
 マキは涙をグッと袖でぬぐって俺に言ってきた。

「結城さん、俺の血、飲んで」

 俺はフルフルと顔を横に振る。

 飲みたくない
 だって
 マキの血を飲んだら
 俺が人間じゃないって
 ほんとにばれちゃう

 俺はぎゅっと体を丸くして、膝に顔を埋めた。

 もう、いいんだ
 マキと離れてしまっても
 でも、
 ほんとうに人じゃないって気付かれて
 それで嫌われるのだけはイヤだ
 だから
 マキの血は絶対飲まないから

「結城さん、、飲んでくれませんか?」

 俺は顔を隠したまま首をまた横に振った。

 飲まないよ。
 飲まないんだ。

「なにか、必要なモノがあるんですか?」

 ゆっくりと俺に近付いてくるマキ。

「ナイフ、いります?・・・・・・ほら、ここにありますよ」

 俺の手をぐっと引っ張った彼は、駿の血が付いたナイフを握らせる。

「ヒッく、、いやっ、こんなのっいらないっ」

 俺はそれを床へと投げ落とした。

「結城さっ、、、おねがい。、、」

 マキが、、また泣いてる。

 どうして?

 俺が投げ落としたナイフをマキは拾った。

 そして、ズシュッ!と、いやな音があふれた。

「やっっ!!!!」
「ほら・・・沢山出てきました・・・」

 マキが自分の右腕を切ったんだ。血が流れてぽたぽたと床に落ちていく。
 部屋中にマキの甘い血の臭いが充満してきた。

 涙をこぼしながらマキが言う。

「結城さん、、飲みませんか?」
「やめてっ!やめてっ!」

 甘い誘惑に襲われながら俺は叫んでいた。

「マキっ!、ひっ、もうやめて!!」

 泣きながらやめてと訴える俺に、静かに涙をこぼし続けているマキがゆっくりと近づいてきた。

「あなたは・・・俺の血が欲しかったんですよね?・・・・・・いくらでも、飲んでかまわないんですよ? 腕じゃ足りませんか?・・・首なら、きっと、いっぱい出ますよ」

 ベットリと血のついたナイフを首へと持っていく。

「やめて!! だめっ!! マキッ!!!」

 俺はマキの腕にしがみついてナイフを奪い取った。

「もうやめてっ!!・・・マキっなんでっ」

 マキがゆっくりと俺のほっぺたに左手を添える。
 涙を流して俺を見てるマキ。

 マキが、凄いきれいなんだ。

「あなたが言ったんです。昨日の夜・・・・・・『はなさないで・・・そばにいて・・・マキがほしい』」

 俺の唇をマキの指がなぞっていく。

 マキ・・・

 俺、マキから目が離せない。
 マキが怖いくらいにきれいだよ・・・

「約束、守りますよ。 あなたの体の一部になって。俺はあなたのそばにいるから」

 ベロリと血の溢れる傷口をなめて。

「俺の全てがあなたのもの」

 マキは俺に口づけた。

 口の中にこぼれ落ちそうなくらい、甘い香りと甘い味が広がっていく。

 それをゴクっと飲み込んでしまった俺は、暗闇が一気に襲ってきて意識を失った。


 マキ・・・・
 狂おしいくらい綺麗だよ

 俺に狂ってるの?
 俺が狂わしちゃったんだね

 ・・・マキ
 ごめん・・・



 

 *


ーひっ、起きて、、ゆうきさっ、、起きってっ

 誰かの声がする。
 俺はゆっくりと目を開けた。

 マキが、意識を失って崩れ落ちた俺を抱きしめて泣いていた。

「ゆっきさっ、、っ目を開けてっ、お願いっ、、ひっく」
「おはよ。マキ」

 俺の声にマキは涙でいっぱいに濡れている顔で見つめてきた。

「結、城さんっっ、、う、、うああぁ、、」

 マキがまた涙をこぼして俺にしがみついてきた。

「ごめんね。。マキ。。いっぱい泣かしちゃって」

 マキが、俺のことでこんなにも泣くなんて。
 でも、うれしいよ。
 マキ、俺が、好き?
 俺、、言ってもいいのかな。
 人間じゃないよって。

「マキ。俺、マキが好きなんだ。ずっとマキと一緒にいたいよ」

 マキは、泣きながらうなずいた。

「だけどさ、俺、血を飲まないと生きていけないんだ。マキ、、別れよう」
「なっんでっ・・」

 マキがもう一度泣き顔を上げて俺を見る。

「だって、そばにいたら、飲みたくなるから」
「っ飲んでっくださいっ、、ひっ、、俺の血っ」

 マキは俺に血を飲んでと言う。

 でもね。。飲みたくないの。

「マキの恋人でいたかった・・・・・・だけど人間じゃない俺は、もうマキの恋人としては生きていけない。だから、お願い・・・・・・最後は、マキの恋人として別れさせてよ」

 唇が震えて、上手く、しゃべれない。

「飲んだら、ほんとに、人間じゃ、なくなっちゃう・・・・・・マキの、血は、飲まないから、このまま、俺と別れて・・・・・・恋人のまま・・・別れたいっ・・っく」

 ぽろぼろ涙が出てきた。

 マキ、、俺、マキがほんとに好きなんだ。

 マキにそっとキスをした。
 さよならのキス。

 マキはしばらく涙をこぼしていたけど「・・・わかりました」と、小さな声を出して涙をふきとった。

「・・・別れます。あなたと。。。」

 マキの口から別れると言う言葉を聞いた途端、俺の胸が締め付けられた。

 でも、これは俺が選んだ事。
 マキはたったひとりの俺の恋人。
 最初で最後の俺の恋人。

 もう人間には恋しないよ
 こんなに辛くて悲しい恋
 次は同じ吸血鬼に恋しなくちゃ・・・

 さようなら、マキ

 俺、次生まれ変わったらきっとマキと同じ人間になるよ
 その時はマキを必ず見つけて

 また好きになるから

 だけど俺は、溢れる涙を止める事は出来なくて。

 そんな俺を慰めるようにマキが、そっと俺の涙を手で拭き取ってくれる。

 そして、俺に笑った。

「結城さん、俺とお付き合いしませんか?」


 マキ?
 なに?

「出会ったのはさっきですが、付き合いませんか? きっと楽しいですよ?」
「・・?マキ?」

 何言ってるの?
 マキが、よくわかんない事を言ってる。
 ホントに、おかしくなっちゃったの?

「別れたんだよ? 俺たち・・・・」

 だけど、マキは、優しい笑顔で話してくれたんだ。

「俺ね、さっき別れたんです。人間の結城さんと。だけど、あんまり悲しくないんです。だって、俺は吸血鬼の結城さんが好きだから」


 そして俺の目から、悲しみとは違う涙が溢れてきた。

「あなたに恋してるんです。人間じゃないあなたに」


 マキ・・・・俺も恋してるよ
 人間のマキに

「吸血鬼さんとお付き合いするのは初めてですけど、付き合いませんか? そのうちきっといい方向が見つかると思いますよ?」

 マ・・・・キ・・・・

 俺は涙がとまらなくて

 マキが優し過ぎて
 マキの気持ちが嬉しすぎて

 人じゃなくていいんだって
 怪物でもいいんだって

 マキが俺そのものが好きだって
 伝えてくれてる

「お茶行かない? くらいの軽い誘いだね……」

 以前のマキが言った台詞で、俺は返事をした。

 にっこり笑ってマキは言う。

「じゃあ、少し重いお誘いしてもいいですか?」
「・・・重い?」

 マキはうなずいて、真面目な顔になった。

「あなたの望み。あなたは、俺の血が飲みたいんですよね? そして、俺の望みはあなたの隣にいる事。・・・・・・叶えませんか?」

 まじめな顔が、艶やかに笑った。

「俺の血をあなたに捧げます、あなたはその体を俺に捧げてくれませんか?」

 俺は何も言えずにただマキを見つめる。
 マキの言葉が、甘く俺の心をくすぐっているんだ。

「俺と、契約しませんか?・・・・・・俺は血と引き換えにあなたを抱きしめ続ける。あなたは俺の血を飲むかわりに俺とセックスする」

 マキの優しい声が呪文のように響いてくる。

 マキの血が飲みたい
 マキに触れたい
 マキのそばにいたい

 叶えられないはずの俺の欲望が。マキの口から溢れてきたんだ。

 そして
 俺を魅了して離さないその言葉が
 俺を縛っていく。

「結城さん。俺と契約しましょう。人と吸血鬼だから俺たちの関係は恋人じゃない。これは互いの欲望を満たすための契約です」

 マキが狂おしいくらいきれいな笑顔で俺を見つめてきた。

 そしてさっきと同じようにそっと手のひらを俺の頬に添える。

「契約するならキスを・・しないなら・・・・いえ、してくれますよね? 俺のすべてが、あなたのものになりますよ?・・・・・・あなたが俺の血を飲み続ける限り、俺はあなたのそばを離れない」

 魅惑の言葉にいざなわれて

 俺は引き寄せられるように

 彼の唇を奥深くまで侵した。


 マキと契約するよ
 だから
 マキを全部もらうんだ

 この口も
 この体も
 もう俺のものだから



 そして俺は
 マキの首に、初めての赤い契約の印を刻んだ


 この甘い血も
 全部
 俺のもの



☆☆☆☆☆
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ