Monsterシリーズ

□Monster
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あなたを離さない

☆☆☆☆☆


 結城さんは俺の血を飲んで、ものすごく元気になった。
 俺にとっては献血した程度の負担だったし、体に何の問題も無い。血を吸われたときは貧血でめまいがしたけど気絶するほどでもない。
 逆に飲んだ結城さんが気を失っているから。。。
 そして相変わらず、俺は結城さんと付き合っていて、結城さんは俺のそばにいる。

   *


「どうだ?うまくいきそうか?」

 課長が作業中の俺に声をかけてきた。

「ええ、順調ですよ。みなさんがきちんと声を出してくださればの話ですが」

 新しく導入する声紋による生体認証システムの設定を俺はしていた。社員一人一人の声を取る事は時間のかかる作業だったが、もうすぐ終わる。
 結城さんの声紋パターンも取った。
 結城さんの声紋は綺麗な波を描いていて、彼の知らない一面を知れたようなそんな気持ちだった。
 しかも、登録音声を”まーき”にされてしまった。
 登録する音声はどんな言葉でも良いんだけどまさか、俺の名前とは。
 俺には”ゆーき”にして、と言ってきたけど、さすがに恥ずかしくて出来なかった。
 その代わり、俺はK2”にした。

 あなたと俺のイニシャル。絵都と和義のKが2つってこと。
 ”ゆーき”とあんまり変わらないかな。

 生体認証には様々な種類があったけど、結城さんの正体を知ってやっぱり声紋認証にしてよかったと思う。

 人間ではない彼の体の記録をコンピュータに登録する事は危険きわまりないと思うから。
 彼の体の構造なんて、俺は全く分からないけど、もし人と明確な違いがあって、それを誰かに見つけられて指摘されでもしたら、もう絶対一緒にいられないと思う。
 声紋はただの音の波である声の波長の違いを認識するから体そのものの記録ではないし、声も経年によって変化する。
 数年に1度は登録し直しもするし彼にとって一番良かっただろう。

「しかし、オマエの恋人は、ほんとに可愛いな。音声認証にまで恋人の名前を使うとは」
「恥ずかしいんで、言わないでください」

 課長に指摘されて思わず顔を赤くしてしまった。

「ま、いいか、しあわせそうだしな。俺もそろそろ恋人作ろうかな。」
「え? 課長いなかったんですか?」
「おどろくことか? 仕事に明け暮れてると出会いなんて中々無いね。もう1年くらい、いないからな」

 本当におどろいた。こんなにいい男に恋人がいないなんて。

「紹介できるような人は俺にはいないです。すみません」
「結城に紹介受けて超可愛い男を手に入れてもなあ。。女が良いよ俺は」
「俺も女のひとが好きですよ。彼は特別です」
「おまえゲイじゃないのか? まあ、好きなら性別なんてどーでも良いしな。さーて、もう5時だし帰るとするか」
「ええ、また作業は明日にして俺も帰ります。今日は大事な日なんで」
「お。デートか?」
「月に1度の特別なデートです。では」

 そう言って俺は仕事場を後にした。後ろから女と浮気デートすんなよーと冷やかしを受けながら。

 家に帰った俺はお風呂に入ってから、結城さんの作る晩ご飯の用意を手伝う。
 今夜も普通に過ごす俺たち。
 食事も片付けも終わって時計を見れば8時だった。
 俺はベランダ側のカーテンを全開にした。夜空に昇ってきた大きい満月の光が部屋に差し込む。

「綺麗だね」
「結城さん、今日はセックスしませんよ」

 からかうように彼に言った俺に「うん、わかってるよ」と、笑顔で結城さんは答えた。

 そして窓辺に立ち、俺は背に月光を受ける。

 ここから見ると結城さんが月に照らされて蜜色の髪も、潤んだ瞳も、濡れたような唇も全てが光ってみえて、すごく綺麗なんだ。
 この満月よりも、もっと。

 初めて出会ったときの、あの目も眩むような美しい結城さん。
 あなたの魔力が未だに俺をとらえて離さない。

「結城さん、来てください」

 妖艶な輝きを放つ彼に俺は手を差し伸べる。
 月明かりのもと、俺たちはキスをした。
 契約のキス。

 求めるのはあなただけ
 ずっとそばにいるから

 そして今度は首に甘い痛みが走る。

 あなたの口づけ。
 約束の口づけ。

 月に一度の大切な約束。

 満月の夜、あなたは吸血鬼に戻る。
 俺の首筋に赤い印を付けて。


 俺の血を吸ってあなたは生きている
 俺だけのMonster

 そして俺は

 この赤い血であなたを縛り続ける
 人間という名の

 残酷なMonster



 満月の夜
 あなたを見つけた

 永遠に
 はなさない



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