Monsterシリーズ
□Monster
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あなたを知りたい
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一人夜道を帰路につきながら、俺はさっきのやり取りを思い出していた。
あれは・・・・・・・なに?
まるで魔法にかかったみたいに、俺の願望が一瞬にして叶った瞬間。
昨日恋に落ちた相手と今日恋人になるなんて・・・・・・・
夕方出社した時、結城さんが寝ているところに出くわしたのも、まるで仕組まれていたみたいに感じる。
彼を揺り起こして、あの濡れた瞳が俺をとらえた時、心拍数が跳ね上がった。
そして自覚したんだ。
俺は、彼が好きなんだって。
そして、昨日の夜引き寄せられるように口づけした事も、やはり一目惚れだったんだって実感した。
出会った瞬間に恋に落ちたなんて、しかも男に・・・・・・・
今日一日、彼の事が頭を離れなかった。
仕事もあまり手につかなくて、しかたないから俺は昨日の彼の行動を整理しようとしたんだ。一応報告書も書かないといけないから。
侵入経路や前後の行動。そして目的。調べていくにつれて不思議な事に気付いた。
彼は、清掃作業員。
清掃作業は作業リストに乗っ取って順番に行われている。そしてこのバイオ研究材料室は作業リストに入っていなかった。
午後8時までならビル内の人間は誰でも入室できるけれど、わざわざ清掃しなくていい部屋に入る必要があるだろうか。
入室記録を見ると彼は午後5時20分、この部屋に入室していた。
勤務時間終了後だ。
何かあるんだ。
この部屋に。
彼を引き寄せる何かが。
俺は、疑問を解決する為にバイオ研究室へを足を運んだ。彼の閉じ込められた部屋を管理している部署だ。
−コンコン
ノックをしてからドアを開ける。もう午後8時だというのに、まだ研究員が残って作業をしていた。俺はその一人に声をかけた。
「すみません。セキュリティ管理室の牧田と申します。少しお話を伺いたいのですが」
「ああ、いいですよ。汚いですけどその椅子でよければ座ってお待ち下さい。もうしばらくしたら手があきますので」
研究員らしく白衣を着たその人の社員証には佐山陽介(さやまようすけ)と名前が書いてあった。伸ばしっぱなしの髪の毛はきっと3ヶ月くらい切ってないのだろう、肩についているし、頬の半分くらいまで前髪も伸びてしまっている。そして明らかにキツい度数だろう、分厚いレンズのメガネをかけている彼は、見るからに研究一筋、って感じだ。だが、メガネの向こうはとても整った顔をしているように見える。細面だが、芯の強そうな少しつり上がった二重の瞳。メガネがもったいないな、と思うほどだ。
そして、もちろん彼はきちんと敬語で礼儀正しい。結城さんのため口とは大違いだ。
「お待たせしまた。俺は佐山と申します。で、どういったご用件で?」
「昨日ですね、何か変わった事がありませんでしたか?いえ、昨日と言うか、今朝出社してこられて気付かれたこと。なにかありませんか?」
しばらく彼は考えてから答えた。
「そうですね。ネズミが2匹、死んだ事と、俺のやっている研究の実験結果が想定外だったっということ、くらいですかね」
何も無かった。と答えているつもりだろう。
俺はそれでも食いついた。
「いえ、この部屋ではなく、バイオ研究材料室です。あの保管室で何か変わった事、例えば保管していたものがなくなったとか、ありませんか?」
「えっと、あの部屋は、重要な機密材料を保管している部屋ではないのです。あそこにあるのは消耗品と言う事で数多く使用するモノばかりですから」
お恥ずかしいことですが、と口を濁しつつ話してくれる。
「俺たちにとっては水みたいなもんですよ。必要不可欠だけれども、これと言って使用量を管理している訳ではない。わかります?」
「ええ、俺たちシステム管理者にとってみれば、コンピュータを動かす電気使用量といったところですよね」
佐山さんはうんうんとうなずいて話を続けた。
「そうですね・・・・・・・たしか、さっき血液関連の研究をしている仲間が言ってました。血液パックが一つ、カラになってゴミ箱に捨てられてたって、誰かが間違えて洗い場に流したのかなって」
「血液パック・・・・・・・」
「人の血液の入ったパックです。400ccのパックがゴミ箱に。ただ、これは昨日の事かどうかはわかりませんが」
「もしかしたら三日前くらいからゴミ箱にあったかもしれません。いつから、とはっきりは言えませんよ」
きちんと管理していない手前か、彼は念を押して俺に伝えてくる。
「いえ、ありがとうございます。それがわかっただけでも十分です。ゴミ箱に入っていた事、それは事実ですから」
俺は笑顔でお礼を言ってその場を後にした。
血液・・・・・・・結城さんはこれが必要だったのだろうか?
結局不思議な事は解決しなかった。
明日、早めに出社して彼を捜し出して聞き出してみよう。
俺はそんな事を考えていた。
だけど、今、さっき、彼に会った。そして、彼の口から少し真相を聞けた。
血液パックを空にしたのは事実だろう。嘘をついているようには思えなかった。
だが、それ以外はわからない。
その血液をいったい何に使ったのか。
掃除中に傷つけてしまったというのが、確実に嘘だったことだけは勤務時間後の入室記録から嫌でもわかる。
でも、俺は聞き流したんだ。
きっと、いつか、真実が分かる・・・・・・・
そう思ったから。
結城さん・・・・・・・不思議な人だ。
俺に恋をしたと、恥ずかしがりもせず言ってきた。
そして、俺と付き合おうと言ってきた。
その言葉を真に受けて俺も付き合うなんて言ってしまった。
しかも、彼を抱きしめて、キスまでして
彼からは一度もないのに・・・・・・・
俺からばかりだ。
だだ、からかわれているだけなのだろうか・・・・・・・
彼の気持ちがさっぱりわからない
今、わかっている事はただ一つ
俺が彼に恋をしている事
それだけだ・・・・・・・