Monsterシリーズ

□Monster
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ほんとの姿

☆☆☆☆☆

 マキが、襲われてた俺を助けにきてくれた。

 驚いた。

 だって、襲われたけど、途中で脱出をあきらめて、この男を食べてしまおうかと考えてたところだったから。

 食べるときは出来るだけ自分の好みの人がいいんだけどさ。
 食事はやっぱり見た目も大事だよね。

 でも、マキに駿とのキスばれちゃった。
 もうしないって言っちゃったから駿とキスできなくなった。

 だけど

 マキの・・・・・・すっごい美味しかった。
 甘くて全身とろけそうだった。


 あんなの初めて。

 
 マキの血は、どんな味するのかな。
 きっと、最高なんだろうな。



「ん・・・・・・あ。。」

 2度目のキスでまた意識を失ってた俺をマキの茶色い瞳が優しく迎えてくれた。

「気付きました?そろそろ8時になります。帰らないとまた閉じ込められちゃいますよ」
「マキは?帰らないの?」
「俺は今日も12時まで仕事です。気をつけて帰ってくださいね」

 え、そうなんだ
 一緒に帰ってくれると思ったのに・・・・

「俺、待ってる。仕事終わるまで待ってる」

 俺の台詞に、マキは困った顔を見せた。

「これから4時間も、どこで待つんですか?もうビル内のカフェは閉店してますし」
「ひとりで・・・帰りたくない」

 それは、マキを食べたかったからだけど、彼は俺が襲われたから怖がっているんだと勘違いした。

「そうですよね。あんな事の後では・・・・・・じゃあ、俺の仕事場ですがセキュリティ管理室でいいですか?」

 マキ、優しいね
 俺のこと、心配してくれてる

 マキ
 必ず美味しく食べたげるから

「うん。嬉しい。ありがとう」

 俺は彼に手を引かれてセキュリティ管理室へと移動した。セキュリティ管理室は思ったよりも狭くて、機械がいっぱいで、テレビ画面もいっぱいで、不思議な空間だった。

 俺は丸いテーブルの前にある椅子に座ってマキの後ろ姿をながめてる。マキは巨大な機械に向かって何かをしていた。

 カタカタとキーボードをタイプしたり、ファイルしている資料を見ながらまたカタカタしたり。

 カタカタカタカタ・・・・・・


 ずーっとこれ。

 その音を聞きながら、いつのまにか、俺は眠りについてた。


 夢を見たんだ。
 久しぶりの夢。


 まだ、パパが生きていた頃の。
 俺が魔物に変わった瞬間の夢。

 ううん、現実。

*****

「絵都ー。晩ご飯だよー」
「はーい」

 パパが俺を呼んでる。
 テレビゲームをやめて食卓へいくと、いつものご飯。
 パスタとスープと赤いジュース。
 フォークやスプーンをテーブルに並べながら、パパが笑った。
 
 パパは、とってもかっこいい。俺と似てなくて、彫りも深くて、なんか青っぽい瞳もして、髪の毛も色が薄い。まるで日本人じゃないみたい。
 でも、正真正銘の俺のパパ。ママは写真見たら俺に似てる。でも俺がちっちゃいときに死んじゃったからママのことはよく覚えてない。
 薄い茶色の髪の毛だけはパパ譲りだ。


「おいしいねー」
「絵都も、もう14だね」
「そだよ。うれしいなっ」

 来週は俺の誕生日。浮かれて返事をしたら、
「今のうちに絵都に言っておかないといけない事があるんだ」
ってパパが真面目に話してきた。

 いったい何?

「絵都。とても、大事な話だよ」
 
 大事な話って、なんだろう?
 おれは不思議に思いながらパパの顔を見つめた。

「パパも、死んだママも、お前も・・・・・・みんな、人間じゃないんだよ」

「・・・・・・あはははっ、なに言ってんの?どこが?人間じゃん」

 パパの言ってる事がわかんなくて俺は笑った。
 だけど、やっぱりパパは真面目な顔して俺に言ってくる。

「これ、何か知ってる?」

 パパが指したのはジュースだった。
 いつも飲んでる赤いジュース。

 何かはわかんないけど、とっても美味しいの。
 小さい時こればっかり飲んでパパに怒られた事もあった。

 今はちゃんと飲み過ぎてないよ。
 2日おきにおちょこに1杯。

 ちょっとだけ。

 でも、大好き。

「わかんない・・・・・・てか、教えてくれた事無いじゃん」

「そうだね。だまってたからね」

 ふっと少し暗い顔でパパは笑った。

「これはね。血なの。人の血。わかるよね。どういう事か」
「・・・・・・え?血?血ってもっと苦くない?すっごい甘いよ?これ、嘘でしょ?」

 信じられなくて・・・・・・パパの言ってる事が

「俺たちの血は苦いけど、人の血は甘いんだ。俺たちはね、一般には吸血鬼って言われるかもしれない種族なの」

 ・・・・・・・吸血鬼?

 鬼?

 怪物?

 魔物?


 ひとじゃ、、ないの??




 パパは話を続ける。

「1年に人ひとり分くらいの血を採らないと、俺たちは死んじゃうんだ。だから、こうやって飲んでる」

「どうして・・・・・・?」

「俺たちはね、自分で遺伝子を作る事が出来ないからなんだ。遺伝子はDNAで出来ているけど、このDNAを俺たちは作れない。だから、俺たちに近い種族の人間を昔から食べてきた」

「パパ・・・・・・人、食べてるの?」

 こわごわ俺は聞いた。

「ああ、じゃないとパパも死んじゃうよ。絵都も、血をのまないと死んじゃうんだよ」


 なんか、気持ち悪くなってきた。

 俺、血、飲んでるの?

「もう、やめて・・・・・・気持ち悪い・・・・・・」
 
 俺はパパの言った事が難しくてよくわかんなかった。
 でも、パパは嘘は言わない。

 そう、きっと本当なんだ・・・・・・
 それに気付いたのは14歳の誕生日の日。

 いつも通り学校に行ったのに、なんかいつもと様子が違うんだ。

 なんだろう?

 みんなが俺を見てるんだ。

 別に寝癖も無いし、顔も洗ってきたし
 なんか、気持ち悪いな・・・・・・

 そう思って過ごしてたら、休み時間友達が話しかけてきた。

「おい、結城。なんか変わったな・・・・・・」
「え?別に変わってないよ、髪だって切ってないしさ」
「違うよ・・・・・・おまえ、すげー色っぽいよ」

 ゴクンと、友達の喉がなる音が聞こえた。


 なんか、怖い・・・・・・

「・・・・・・色っぽい?俺が?・・・・・・変なの・・・・・・」


 放課後、部活にいく気もしなくて、俺はひとりで家に帰ってた。そして、もうすぐ家に着きそうになった時、路地裏から腕がのびてきて俺を掴んた。

「えっ?」

 その腕に引っ張られて家と家のわずかな隙間に俺は連れ込まれた。

 誰?と思ったら、俺の事を色っぽいって言ったさっきのクラスメート。

 なに、どうしたの?と聞こうとする前に俺を抱きしめてキスをされて。

「んっ・・・・・・なっ!」

「結城、おれ、もう、我慢できないっ!!」

 彼は荒い息を吐きながら、俺の学ランの下に手を入れて体を触り始める。

「ちょっ!っやめてよっ!!」

「だから無理っ、オマエが欲しい!」

 えっ・・・・・・や、、っ!!

 暴れたけど、彼の方が体も大きくて、俺はされるがままだった。
 気付けば上の服はとられて、彼も服脱いでて、体が密着してきた。


 その感触に、気持ち悪いっ!て思った瞬間、フワッといい香りがしてきた。


 彼のむき出しの首筋から。
 あらわになってる胸の辺りから。


 すごい、いい香り


 俺はその香りに我慢できなくなって、おもわず彼の首にかぶりついた。


 今度はブワっていい香りと甘い味が口に広がる。


 あ、あのジュース。
 俺の大好きな赤いジュース。



 俺は
 それが彼から出なくなるまで飲み続けた。


「ふぅ。おいしかった・・・・・・え??」

 目の前の友達。
 それは、もう友達じゃなかった。


 カラッカラに乾いてミイラみたい。
 目もくぼんで、頬もこけて、そして、その場にくずれて

 粉々に、なった


 それを俺はながめながら、悲鳴を上げるまもなく、クラッと意識を失った。




 次に目を開けたら、自分のベッドだった。


 あれ?
 俺、確か・・・・・・


「あああああああっっっ!!!!いやだああ!!」


 口から、さっきでなかった悲鳴が上がった。

「あ、うっっく・・・・・・いや、いや、っひ、あああああ!」



ーバンっ


「絵都っ!大丈夫か?」

 パパがドアを勢い良くあけて入ってきた。

「あ、パ、パ・・・俺、俺・・・・・・ひっっ。オ、レぇっ!」

 意味不明の言葉しかでない俺を、パパはぎゅっと抱きしめてくれた。

「絵都、おまえはご飯を食べただけだよ。生きていくために食べただけ。何にも悪い事してないからっ」

 やっぱり。
 俺、友達を、食べたんだ・・・・・・

「ひっ。あああっうっ。ひっく・・・・・・パパ、パパぁぁ・・・・・・っ」

 俺は、涙がとまらなかった。




*****

「ん・・・・・・」

 目を開けたら目の前に心配そうな茶色い目があった。

「怖い夢、見ちゃったんですか?」

 俺の頬にいつの間にか流れていた涙をハンカチで拭きつつ、マキが優しい声で聞いてくる。

「あ、ありがと」

「あと1時間ほどで仕事終わりますし、ココアでも買ってきますから飲んで待っててください」

そう言って部屋を出て行った。


 俺は、さっき見た過去を思い出してた。


 初めてひとを食べた日。
 俺は2日間眠りについて目が覚めた。

 自分自身が怖くて、気持ち悪くて、どうしようもなかったけど、

 一番びっくりしたのは、体が嘘みたいに軽くなった事。


 栄養が満たされて元気が有り余っているんだ。って感じたんだ。

 俺、やっぱり、吸血鬼なんだ。


 俺が食べちゃった友達は行方不明者になってて、いっぱい張り紙がしてあった。
 粉々になって風に飛ばされて、彼の骨も無いんだ・・・・・・


 彼のこと考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 彼を食べてしまった罪悪感。
 人を殺してしまったという、恐怖感。
 
 なのに、俺は、あの甘い血の味が忘れられない。
 あれが、飲みたくて、仕方ないんだ・・・・・・

 しばらくしてから、パパと話した。
 どうやったら人を殺さずに血を飲めるのかって。

 パパは言った。
 セックス中が一番だって。
 快感に溺れるひとの首に噛み付いて死なないくらいに血をもらうって。

 俺たちは牙で噛み付いてる訳じゃなくて、皮膚を通して血液を吸い出してるから、

 残るのはキスマークのみ。

 まずばれない。


 
 ねえ、マキ?

 俺とセックスしようよ

 そのとき

 マキの血

 ちょっとちょうだい?


 俺、そんなにお腹すいてないけど

 この間血液飲んだから2ヶ月くらいは大丈夫なんだけど

 マキの甘い唾液がね、もう忘れられなくて

 きっと

 それよりもっともっと甘いよね
 
 マキの血・・・・・・


 たくさん飲まないから、少しだけでいいから



 俺に

 ちょうだい





 −ガチャ

 ドアが開いてマキが帰ってきた。
 缶のココアを2つ持ってる。

「どうぞ、結城さん。もう少し、待っててくださいね」

 そう言ってまた巨大な機械に向かう。

 俺はもらった間のプルタブをプシュッと開けて、あったかいココアをゆっくり飲んだ。

 おいしい・・・・・・


 なんかさ、さっきから考えてばっかり。
 マキの事ばっかり、なんだ。

 マキがどうやったら俺とセックスしてくれるかなって
 そればっかり。

 俺は我慢できなくて、椅子に座ってるマキの体を後ろからイスごと抱きしめた。

「結城さん?」

 マキの首筋に顔を埋めてそこにキスをする。

 こんな、触れるだけじゃなくて、もっと強く吸い付きたい。
 この下に流れてる赤くて甘い液体を飲み干したい。


 チュッチュッ

 音を立てて何度も吸い付いた。

 彼を抱き締めてる俺の指にマキの指が絡まってくる。
 そして、ぎゅっと俺の手をにぎって、俺の方へ顔を向けてきた。

「キスします?」

 言われて彼の唇に噛み付いた。


 欲しい

 マキが欲しいよ

 マキの甘い血を吸って
 甘い香りのする体を抱きしめて

 今夜は満たされて眠りたいんだ


「今日は、ずっと一緒にいたいよ・・・」


 離れた唇の隙間から、囁いた俺に

「わかりました。終わったら俺のうち、来てくれますか?」

マキはすごく優しく囁き返した。



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