寄り添い花シリーズ

□寄り添い花
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『奏太』好き

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 巨大な温室の奥、ボクの大好きな花がある。

 色とりどりに咲いているこの花たちは、

 ママが大好きな花。
 
 そして、桐島(きりしま)がボクのためにくれた花も、たくさんある。


 どれも綺麗でイイ匂い。

 でも、一番好きなのは……




 足音を聞いて、ボクは振り向いた。


「奏太(かなた)さまっ、探しましたよっ」

 息を切らして走ってきたのは、執事の桐島。

 いつも黒いスーツを着て銀色の眼鏡をかけてる。

 走ったせいか、すこし癖毛の黒い髪の毛がちょっとだけ乱れてた。

 でも、桐島はいつでもかっこいい。

 怒った顔をしてても。


「だって、かくれんぼでしょ?」

 ボクが笑って言うと、少しあきれた声を出した。

「かくれんぼって、あなたが勉強がいやだと逃げただけではありませんか」

「そんなことない。勉強は嫌いじゃないよ。宿題もちゃんとしてるもん」

「ですが」

「ねえ、桐島? 怒ってる?」

「はい、怒っておりますよ」

 怒ってると言ったけど、桐島の目はとても優しくて。

「桐島、許してよ」

 背の低いボクに合わせるように桐島はしゃがんだ。

 温室の土で執事服の膝が汚れることも気にしないで。

「奏太さまが、もう脱走しないとお約束して下さるなら」

 ボクは、少し考えた振りをした。

 そして「わかった、する」と答えたら、桐島の目はもっと優しくなった。

「奏太さま、有言実行ですよ?」

「わかってる。ねえ、桐島、もう怒ってない?」

 桐島がボクの方にそっと手をおいて、笑った。

「怒っておりませんよ」

 その言葉にうれしくて

「桐島、目つむって?」
 
 と問いかける。

 桐島がそっと目を閉じた。

 ボクはその唇に軽くキスをする。

 
「桐島、好きだよ」と小さく囁いて。

 それは、喧嘩したときのルール。

「仲直りキス」とボクが名前を付けたんだ。

 
「桐島も、奏太さまが大好きです」


 ぎゅっとボクを抱きしめた大きな腕は、とてもあたたかで。


 そのとき、まだ十にも満たなかったボクは、そのキスも気持ちも

 何もかも幸せでたまらなくて。



 ただ、純粋に桐島が「好き」だったんだ。


 
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