寄り添い花シリーズ
□寄り添い花
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『奏太』好き
☆☆☆☆☆
巨大な温室の奥、ボクの大好きな花がある。
色とりどりに咲いているこの花たちは、
ママが大好きな花。
そして、桐島(きりしま)がボクのためにくれた花も、たくさんある。
どれも綺麗でイイ匂い。
でも、一番好きなのは……
足音を聞いて、ボクは振り向いた。
「奏太(かなた)さまっ、探しましたよっ」
息を切らして走ってきたのは、執事の桐島。
いつも黒いスーツを着て銀色の眼鏡をかけてる。
走ったせいか、すこし癖毛の黒い髪の毛がちょっとだけ乱れてた。
でも、桐島はいつでもかっこいい。
怒った顔をしてても。
「だって、かくれんぼでしょ?」
ボクが笑って言うと、少しあきれた声を出した。
「かくれんぼって、あなたが勉強がいやだと逃げただけではありませんか」
「そんなことない。勉強は嫌いじゃないよ。宿題もちゃんとしてるもん」
「ですが」
「ねえ、桐島? 怒ってる?」
「はい、怒っておりますよ」
怒ってると言ったけど、桐島の目はとても優しくて。
「桐島、許してよ」
背の低いボクに合わせるように桐島はしゃがんだ。
温室の土で執事服の膝が汚れることも気にしないで。
「奏太さまが、もう脱走しないとお約束して下さるなら」
ボクは、少し考えた振りをした。
そして「わかった、する」と答えたら、桐島の目はもっと優しくなった。
「奏太さま、有言実行ですよ?」
「わかってる。ねえ、桐島、もう怒ってない?」
桐島がボクの方にそっと手をおいて、笑った。
「怒っておりませんよ」
その言葉にうれしくて
「桐島、目つむって?」
と問いかける。
桐島がそっと目を閉じた。
ボクはその唇に軽くキスをする。
「桐島、好きだよ」と小さく囁いて。
それは、喧嘩したときのルール。
「仲直りキス」とボクが名前を付けたんだ。
「桐島も、奏太さまが大好きです」
ぎゅっとボクを抱きしめた大きな腕は、とてもあたたかで。
そのとき、まだ十にも満たなかったボクは、そのキスも気持ちも
何もかも幸せでたまらなくて。
ただ、純粋に桐島が「好き」だったんだ。
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