短編集(Rあり)

□Endlless Game(6p)
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渇き


☆☆☆☆☆


 性欲を処理する相手など、黙っていてもいくらでも寄ってくる。

「ぁあっ、ハアっ、あんっッあんっ」

 己の動きにあわせて喘ぐ女が「ぁあっ、イッ、イくぅっ・・ぁんっ!」っと叫んで腰を痙攣させて涎を垂らした。世間では確実に美しいと言われているだろうこの女。だがイくときは眉間に皺を入れて餌を待つ鯉のように口を無駄に開けている。裕雅がそこに感じたのは、なぜか興奮ではなく侮蔑だった。

 一気に興冷めした彼は、まだ精を放っていないのに、その体を貫いていた自分のモノを引きずり出す。渇いてしまった性欲は、女の所為だ。
「あん、っ」
 女が体を揺らせて喘いで布団に脱力したのを見て余計苛ついた。だが、斬り殺そうと思ったその時、一瞬彼が感じたのは、肌を包み込む熱い気配。

(・・・これは・・・)

 彼はニヤと笑った。そして女の耳元で、そっと囁く。
「女、出て行け」
 淫らな余韻にまどろんでいた女は「え・・・お屋形さま・・・」と唖然として彼を見た。だが「出て行いくか、死ぬか」と再度落とされた台詞に畏怖を感じた彼女は、慌てて散らかった己の着物をかき集め始めた。

「お屋形さま」と呼ばれた彼はこの城の城主である。国を治める喜多田家に生まれ育った生粋の王だ。生まれながらにすべてを手に入れていた彼の欲望はとどまることなく、周りを巻き込み全て飲み込んでいく。彼が王になって10年で、近隣の国のうち既に6国がその手中に落ちた。そして今もなお、その活動は止まらない。

 笑みに顔をゆがめた裕雅が、布団脇に置いてあった自身の刀を掴み、スウと鞘をはずし刀身をむき出しにした。
「・・っヒィッ!」
 それを見て、着物を握りしめた女が醜い悲鳴を上げた。それを無視して、彼はその刃先をザンッ!と思い切り天井に突き立てた。
「ヒアっ・あッ・・・いやぁああ!」

 せっかく集めた着物をその床に落とした女が着物と叫びを残して部屋を飛び出した。だがやはり目もくれない彼は、ただ、刃の刺さった天井を見つめるだけ。そして、
「覗きが趣味?降りて来いよ。じゃないと次はその体に刀突き立てるよ?」
と声を掛けた。

 暫くして、わずかにギシりと音を発てた天井の隅が開き、上からサッと飛び降りてきたのは、己の部下の一人。柿渋色に染め上げた忍び装束に身を包んだ体をすくと立ち上げたその男、千早の顔を彼はゆがんだ笑顔でジッと見る。
「いつから気付いてたんだよ」
 呟いた部下は潜んでいたことを気付かれた己の失態が悔しくてだろうか、その眉間に深く皺が出来ている。それに萎えた芯が疼くほど興奮した。さっきの女には蔑みしか湧き出なかったのに。

「最初っから」
 気付いたばかりなのに、笑ってウソを言った彼は、裸のまま千早ににじりよる。
「覗き忍者のおかげで、途中で萎えたんだよね、責任とってくれる?」
「はあ?アンタ、あんだけ女とヤっとい・・・・っ!」
 その言葉を唇で遮った。逃げようとした体と唇を全身で押しとどめて、遠慮なく咥内に入っていく。
「んっ、・・・っんっ・・・っ」
 内側をナブる舌先の愛撫で嫌がる体がビクンと跳ねたのを感じ、興奮が加速した。

「ヤるよ、今から」
「っおま、えっ、っ、信じらんねぇっ」
「俺のこと信じた瞬間なんて、お前にあったの?」
「あるわけねぇしっ!」

 つっかかってくる千早を思い切り布団のところに投げ飛ばした。素早く受け身で体勢を立て直した千早の腕が振りかぶる前に力ずくで握り込め、押し倒す。その小さな体に馬乗りになって両腕を布団に縫いつけた。

「俺に勝てると思ってるの?」
「・・っいつか、勝ってやるっ」
 なのに強気にそう言い放った男の顔は怒りと憎しみに満ちていた。

(ああ、これだ)

 その顔を見て笑った裕雅は、再びその唇を塞いだ。息すら出来ないほどに奥まで休むことなく責め立てる。布団に押しつけられた千早の腕がカタカタ震えて、だがいつしか力が抜けていく。
 抗えないのは、「快感」にか、それとも「お屋形さま」にか。

 力が抜けきったのを確認してから捕らえた腕を解放し、そっと頭を撫でると「わかってるな、千早」と微笑んだ。
「・・・っくっ」

 口付けで火照った顔が苦悶にゆがむが、組み敷かれたままの千早が腕を下へと伸ばして、そっと裕雅の堅い肉をなで上げた。体格だけでなく剣術も格闘術も全てにおいて裕雅が上だと、部下として十分すぎるほど知っている千早が選ぶのが、これしかないのはもう承知している。
「ふふ、いい子だ」

 幼子をあやすように囁いた裕雅に「・・・なんで、デケぇんだよ」と千早は小さな声で愚痴を言った。それに卑げた笑いがこみ上げる。渇いたはずの性欲が千早の所為で今度はどんどんと潤っていった。

(愚痴じゃなくて、もっと悲壮感ある声で哭け)

「それ、舐めろ」
「っ、っウソだろっ?」
 女の体内に入っていた跡が色濃く残った肉棒を口にくわえるなど冗談じゃないと、最大級に嫌悪感を見せた千早から裕雅は体を離す。そして布団に胡座をかいた。
「二度は言わない。どうする?」

 逆らえば死しかないのだと言うことは、幼い頃から虐げられてきた千早の身体に否応無く染み着いている。ムクと起きあがり布団の上をズリズリ這って、すぐ傍までくると体を小さくかがませて、そっと立ち上がる肉に口付けをした。だが女の体液の絡んだソレを口に含むのを嫌がってか、手で擦り上げながらも唇は触れるだけにとどまり、いっこうに開く様子がない。
 痺れを切らした裕雅は、千早の頭の柔らかな髪を鷲掴むと思い切り揺さぶった。

「今すぐこの頭、切り捨てるぞ」

 その言葉に漸く口を開いた千早が、パクとくわえ込んだ。しっとり濡れた咥内は微かに擦れる硬い歯の感触と、ざらついた舌の感触。そして奥へ吸い込まれる感覚で壮絶に気持ちいい。あの女の中よりよっぽど。  
 大きすぎて全部くわえられない部分は掌でさすって丁寧に愛撫をする千早が、たまにえづくのを見て、ククッと笑いが沸き出る。

 愛撫の仕方も、体を開かせたのも、そして、男に貫かれて果てに達する快楽を教えたのも、全部自分だ。千早の周りにいた大切な者全てを奪っただけでなく、まだ幼い身体を押し貫き、千早の全てを手に入れた。

 出会った頃の小さな千早は、今とは違い全身から感情が溢れていた。裕雅に向ける怒りと憎しみは誰が見ても明らかで、部下の中には『あの者をお屋形さまの傍に置くのは小姓としても、どうかと思う』と言及した者もいた。まあ、その輩は直ぐに切り捨てられたのだが。

 憎しみに震える千早を抱くのは、快感だった。初めての貫通の激痛にも、幼子は必死で耐えていた。『痛いか』と聞くと『んなわけ、ねぇっ』と苦しそうな声を出しながら、決して涙を見せ無い。肌に痛いほど突き刺さるその憎しみは、己を興奮させた。

 ソレが楽しく仕方なくて、幾度もその身体を貫いた。もちろん千早は子供で身体もまだ小さい。性交を楽しむと言うより千早の憎しみを楽しんでいた裕雅にとっては、千早との交わりはただの悪戯のようなものだった。

 手加減をしながらも『そのうち、気持ち良くなる』と教えた。そして二月ほどたった頃、漸くその幼い身体は快感に目覚め始めた。だが、なぜかそれから交わりに激しく拒否を始めた千早。

 抱こうにも『触るなっ触るなっ』と叫んで、まるで初めての時のように暴れた。そして殴り押さえて無理矢理抱けば、揺らされる度に出そうになる喘ぎ声を必死で押し殺し、耐えている。それでもたまに『あっ』と声が出ようものなら、自分の口を手で塞いでしまう始末。

『気持ちいいなら喘げ』とその手を無理矢理離したら、顔に唾を吐きかけられた。
 自分がしたことはあっても、誰にもそんな事をされたことがなかった裕雅にとって、ソレは怒りと言うよりもっと別の『感情』を揺らされた。

 そして今まで一応子供だからと、動きを押さえていた行為に火がついた。

『威勢がいいな。じゃあ、手加減は無しだ』

 悦びに目覚めたばかりの身体の奥を、執拗なまでに揺らせて突き上げる。

『うっ、ああ!っあああ!』

 千早の口から出たソレは、喘ぎと言うより悲鳴だった。これほどまでに欲をあおる声は聞いたことがない。己の体中から渇いたはずの『感情』がとめどなく動き、幼い千早を食い尽くす感覚に陥った。

『もっと哭け』

 揺れしなる小さな背中が震え、大きく開かれた瞳がどんどん潤んで、ポタポタと涙をこぼした。裕雅はその時、初めて千早の涙を見たのだ。

『ヒああっ、イヤっだっ・・ぅあっ、っああっ、っこわいっ』

 喘ぎ声と泣き声の混じった悲壮な悲鳴が、己の『感情』を突き動かして、揺する身体が止まらない。

 そして、遂に。

『こわいっ・・ぁああっ・・っこわい、っ、いやだっ!・・・あ、あっ!・・・ッコワいぃっ、い、っあああっ!』

 泣き叫びながら、千早は初めての果てに達した。
 その内部の力強い締め付けに己の精も呆気なく道連れにされた裕雅は、ボロボロ涙を流したまま意識を途絶えさせた千早の姿に、再び自分の奥底の『感情』が震撼したのを感じた。

 家族の無惨な遺体に驚愕し、怒りを露わにして己に向かってきた時も、初めて体を開かされた時も、恐さも涙も押し殺していた千早だったのに、まさか、性交のさなか、こんな形で彼の恐怖が溢れるとは考えもしなかった。

 憎い相手に快楽の頂点に連れて行かされる感覚、ソレは昇ると言うより、墜ちるのかもしれない。

 快感が怖いなど、裕雅には想像も出来ないことだった。だが、それを目の当たりにした時に震え満たされた『感情』が身体にまとわりついて離れない。

 それから約半年間、隣国との戦が始まるまで、裕雅はその脅えイく千早に侵されたかのように、毎日幼い身体を抱いた。


*****


「昔みたいに、毎日俺にヤられる?」
「じょう、っだんじゃ、ねっぇっ」
「まだ、怖いんでしょ?」
「なにいってやがるっ」
「震えてるよ?」
「震えてねぇっ、っぅああっ、!」

 ズブと奥深くまで埋まった肉をさらに突き立ててれば、言葉がうまくしゃべれなくなる千早を見て、あの頃と変わらないなと改めて思った。

 与えられる快感に今も無駄にあがく姿。なのにそれに負けて達する瞬間の彼の瞳にはやはり恐怖がいつも見える。それが見たくて、千早を抱くときは何度も何度も彼をイかせた。

 さすがに四度もイかせると意識を失うことが多かった。そして翌朝は腰が立たなくなり使い物にならないと分かっていてもなお執拗に彼を揺さぶってしまう。ソレは千早を見るだけ揺らされる『感情』の所為だ。それは先ほどのあの女でも、誰でもなく、千早だけに動かされるものだった。

 幼い彼をイかせた時に満たされた『感情』は、愛だとか憎しみだとかそんなものではない。今なら分かる。
 渇きを満たされる感覚は、麻薬と同じ。一度知ればもう、止められない。

「ふっ、っうあっ、んっ、ぁああっ」

 この男の声は、昔よりも更に艶めいて輝きを増している。無理矢理に搾取されているのに溢れ出るその色気は見る者を魅了して止まない。
 千早が忍びとして偵察部隊の頂点に立てるのも、この色気に他ならないのだが、本人はきっと気付いていないのだろう。

 蠱惑に相手を闇にからめ取り落としていく。そしてきっと、自分が一番にソコに墜ちたのだ。

「あっ、ひっろぉっ、あのっ、女、三度目っ」
 揺らされながらも、快感から意識を逸らそうと話をする千早に、笑えた。いつまであらがう気か。
「そんなの、覚えてないよ」
 性欲を吐き出す相手のことなど、記憶に残す価値もない。

「気に、いってたんだろ、っあっ、女にっ、しとけよっ」
 自分じゃなく、あの女に突っ込めと睨まれた。三度も同じ輩と寝るなど今までなかったと。
 ソレを聞いて、漸く合点がいった。
「さっき覗いてたのは俺があの女に興味があると踏んで、殺す隙があるかもなんて思ってたわけ?」

 千早は過去に幾度となく寝込みや他者との性交時に裕雅へ襲いかかった。だが無論全て無駄に終わった。それからもう二年ほど襲いに来ることはなかったから、あきらめたのかと思っていたのだが。
 自分の浅はかな思考を見抜かれて、睨んでいた瞳を背けた千早の顔を掴むと、その唇に噛みついた。甘い唾液を絡め取り吸い上げれば刺さった肉欲を包む内壁がキュウと引き締まりさざめく。

 こんなに快感に敏感なくせに、それから逃れようとどこまでも諦めることなく挑戦する千早は、どこまでも千早を手放せない己と、きっと何かが似てるに違いない。

「誰を何回抱いたかなんて数えてないけど、誰が一番なのかは、お前が十分、身体で分かってるんじゃないの?」
「んなっ、わけねぇしっ」
 それこそ冗談じゃないと吐き捨てた顔が、事実と知り得て真っ赤に染まる。抵抗をやめず、事実すら拒否するこの男こそ、己の『感情』を誰よりも知り、誰よりも満たす存在だ。

「て、めぇ、もぉっ、狂ってっるっ」
 睨みに怒りと憎しみを込める千早と、反して甘く乱れる身体に、カラカラの『感情』が満たされていく。

「狂ってるよ。だから、お前を抱いてる」

 その『感情』を千早に与えるように何度も奥に肉棒を擦り付け、抉った。

「っうあっ、ヤめっろっ・っひあっ・・ぁあっ!あっ」

 頭を激しく左右に振り、こみ上げる悦びと対立しては、喘ぐ千早に、
「今日は、久々に狂い落ちるまで、イかせてやるよ。だから、もっと濡れて喘げ」
と甘く脅した。 

(俺の乾きを潤せるのは、お前だけ)

 激しい突き上げの果て。

「ん、ぁあっ、いヤっ、だっ、んっ、やっ、やっあ、ああああっ!」

 裕雅は、叫び声と恐怖を連れて登り詰めた色香満ちる身体に、一度目の渇いた熱を流し込んだ。


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