クリスマスは君とチョコとクローバーシリーズ

□クリスマスは君とサンタクロース
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クリスマスは君とサンタクロース

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肌寒い季節は、やっぱり好きな人と一緒にいたい。
誰でもそう思うもの。

去年の12月、穂瑠くんと出会ってもう1年。
友達からスタートした俺と彼だけど、今はちゃんと恋人同士になってる。

今日は、クリスマス。
もちろん彼は仕事だけど、俺は家庭教師のバイトが終わってから、彼の勤め先である小さな雑貨店『Ever Green』に足を運んだ。

昨日も一緒にいたんだけどさ、やっぱね、傍にいたいんだよね。しかたない。だって好きだから。

お店のドアを開ければ、キイ、と蝶番のこすれる音がして、エアコンで調整された暖かい空気が俺を包む。

「いらっしゃいませー、あ、祐くんっ」

それ以上に彼の声に心があったまるんだけどね。
いつもの茶色いエプロン姿の穂瑠くんがほほえむ姿に、ほっとする。

「バイト終わったから来ちゃった。仕事終わるまで、中でプラプラしてていい?」

「いいよ。ていうか、お客さんもう誰もいないし」

って笑った彼に、ちょっと近づいてその頬に掠めるようにキスをした。

「いないからって、こう言うのはやめて」

少し赤い頬でイヤだと拒否の言葉。ああ、そんな姿も俺にとっては可愛すぎるんです。

「犬はどこでもすり寄っていくものだよ」
「ゴールデンは賢いワンコだから、ちゃんと主人の言うこと聞くよ」

「・・・・・・はい。すみません」

結局彼の言葉に負けて、スゴスゴと店をふらついた。

すると、

「祐くん、店ん中でみのにちょっかい出さないでよ」

って厳しい声がした。そちらを振り向けば、カタカタとクリスマスグッズを箱に仕舞っている高校生の女の子。
相変わらず肩くらいの髪の毛を適当に後ろでくくって、そして黒縁めがね。めがね外したら美人なのに、もったいない。って思ってるけど、それは秘密。多分言ったら殴られる。

彼女は店長の娘の倫子ちゃん。

「ごめん、倫子ちゃん。いたんだ」

「この店の娘ですから、いて当然です」

ごもっともな言葉です。

「クリスマスグッズ、片づけてるんだ。手伝うよ」

棚の上の方にあるグッズに手を伸ばして、俺も彼女を手伝った。

「ありがと、祐くん。でもバイト代、出ないけどね」
「大丈夫。俺、時給1500円の家庭教師やってるから」
「1500円?!なんて高給取りなの?うちのバイト代の倍じゃんっ」
「でしょ」

にや、と笑った俺に、
「じゃ、このクリスマスのサンタの置物、買ってね」
とうれしそうに手に持ってた木彫りの優しいサンタクロースを俺に押しつけた。

値段見たら、なんと3000円!今日のバイト代、これでチャラじゃんっ!
それをそっと彼女に戻した俺。

「いや、遠慮しとく。俺は、サンタクロース間に合ってるから」
「持ってんの?」
「そこは穂瑠くんに。。。。いや、なんでもないです」

思わず口にしそうになった妄想を慌てて取り消した。

「・・・・・・あんた、みのにサンタコス着せるつもりかよっ」

でも、遅かった。さすが、倫子ちゃん、俺の妄想なんてバレバレでした。

「するわけないだろっ。そんな事したら、穂瑠くんに振られちゃうよっ」
「うわーっ。ミニスカサンタコスとかなんでしょっ!サイテー!」
「違うよっ、穂瑠くんはちょっとブカブカなサンタクロースが一番似合うよっ」
「それだって十分変態だっ!外道な妄想するあんたなんて、振られてしまえばいいんだよっ!」

倫子ちゃん、厳しい。妄想だけだから、許してよ

「どしたの?リン?祐くん?」

ギャーギャーわめいてた俺と倫子ちゃんに不思議そうな顔を見せながら、「もう時間だから、閉店看板出したよ」って言った穂瑠くん。

「ありがとみの。ああっ!やばいっ!あたしこれから塾なんだよっ。お金の計算もう終わってるし、みのっ祐くん、このクリスマスグッズだけ片づけてから帰って。じゃっ」

時計見て大慌てになった倫子ちゃんは、「店でいかがわしい事すんなよっ」と俺にピッっと指差してから、上着をつかみ、勉強用の鞄を持って駆け足で裏口から店を飛び出した。

「・・・・・・祐くん、なに、いかがわしい事って」 

俺を見る穂瑠くんの視線が痛い。 

「いや、そんな事は、しません。俺は従順なゴールデンです」

棒読みで取り繕う俺。

「ま、いいや、さっさと片づけて帰ろうよ」

ぱっと仕事に戻った穂瑠くん。俺も彼のあとを付いて、クリスマスグッズを片づけ始める。

「30%オフにしても、少しは売れ残るもんだね」
と、値下げ札をはがしながら言った俺に

「仕方ないよ、でも、また来年もこのサンタやトナカイはここで並んで誰かを幸せにする瞬間を待ってるから。売れ残っても、寂しくはないよ」

笑って彼は答える。

「そっかあ、俺も子供の頃はサンタクロース、信じてたもんな。あ。コレで終わりだよ」

ラストのサンタの置物の値下げシールをはがして、彼に手渡した。
それは倫子ちゃんがさっき俺に押しつけたものと同じで、アレ値下げしても2100円もするんだね、なんて夢から現実にあっという間に戻っちゃった俺。
 
だけど、それを受け取った穂瑠くんは、なんだかさみしそう。

「祐くん、サンタ、信じてないの?」

「え?・・・・・・だって、サンタは親がやってただけじゃん」

いないサンタをどうやって信じろと?

「祐くん、さみしいね」

呟いた声は、もっと寂しそうで、俺はどうしていいか分からなくて。

「み、穂瑠くん・・・・・・?え、と、穂瑠くんはサンタ、信じてるの?」

それに、コクンと頷いた。

24にもなって、サンタ信じてるなんて、もう、奇跡としか言いようがないんですけど、と言うか、めっちゃかわいいんですけど!!!

俺、どうしたらいいんでしょうか、サンタさんっ!!

俺の心の動機はMAX。ああ、彼を今すぐ抱きしめたい。

でも、肝心の穂瑠くんは、ショボンとした顔で言った。

「お店に来るお客さんの会話でね、良く聞く台詞があるんだ。『もう、お母さんが払ってるんだからねっ』とか、子供が『どうせサンタなんていないし』とか言うんだ。そういうの聞くと、悲しくなる」

現実には、確かに親がやってる訳で、サンタの代わりを。
もちろんそれは穂瑠くんだって分かってる。
どう言うこと?

「穂瑠くん、穂瑠くんがサンタ信じてる理由ってなんなの?」

それに答えずに彼は俺に質問をした。

「好きって気持ちは、どこから来るの?」

「え、?」

まさかの突拍子もない質問返しに、俺は戸惑った。そんな事考えたことない。

「俺のこと、好きって気持ち、どこからきた?」

「わ、分からないよ・・・・・・でも、俺は、穂瑠くんが、、、好きだよ」

戸惑った末の、思いもかけない久々の告白に、頬が一瞬で熱を持ってしまった。

「祐くん、顔、赤い」

「もう、恥ずかしいじゃんっ。好きだよっ、しょうがないだろっ、、穂瑠くんが好きなんだっ!!」

手にサンタを握ったままだった彼に腕を伸ばして、思い切りぎゅっと抱きしめた。

こんな顔、見られたくないよ・・・・・・

「ねえ、それと一緒だよ。サンタも」

だけど、腕の中にいる彼は、静かに言った。

「どこからきたのかな?幸せな気持ちとか、好きって気持ちとか、大切にしたいって気持ちとか。そういうのって、形にならないものだよね。どこから来るのかすら、わかんない。あるのかすら、わかんない。でも、現実にあるから、祐くんは俺の傍にいてくれるんでしょ?」

「穂瑠くん・・・・・・」

「サンタは、そんな、気持ちをあらわす形なんだよ。親がやってるのは確かだけど、その気持ちはサンタだよ。サンタクロースは幸せの形。愛しいって言う、大切だって言う形。見えないものを見えるようにしてくれたんだ。だから、サンタはいるんだよ」

ふわ、っと笑った穂瑠くんは、「帰ろっか?」って俺の腕をほどいて、手に持ってたサンタの置物を箱に仕舞おうとした。

「み、、穂瑠くんっ、それっ」

俺は、たまらず彼を制止してしまったんだ。
 
「なに?」
「それっ、俺、買うっ。・・・・・・あ、俺んち、サンタの置物ないし」

「ふふ、祐くん、単純。でも、そゆとこも、俺好きだよ」

はい、とサンタを渡された俺は、財布から2100円を出して、レジの前においた。
チン、と音が鳴ってレジスターがあけられて、お金を仕舞った穂瑠くんは、なんだかすごくうれしそう。


店の電気を消して、二人で裏口から外に出たら、ハラリと雪が舞っていた。

それを、きらきらした瞳で眺める穂瑠くん。

「冷たいだけの雪だって、クリスマスに降れば、なんか幸せな気がするよね。クリスマスは世界中があったかい気持ちで溢れてるから、雪もね、きっとあったかいんだ。優しいんだ」

俺は、そんな彼と、手の中にある優しい木彫りのサンタを交互に見つめた。

サンタクロースさん。

俺、見つけたよ。

幸せのサンタ。

俺だけの、サンタ。

彼は、
いつも茶色のエプロンをつけた、ちょっと垂れ目の、俺のかわいいサンタクロース。

「穂瑠くん、帰ろっ」

手の中の赤いサンタを胸ポケットに仕舞った俺は、雪の中で幸せな笑顔を見せる彼にその手を伸ばした。

穂瑠くんの手が俺の手をつかんで、二人でぎゅっと温もりを分かち合う。

手の平から伝わるそれは、形のないはずの幸せを、俺の体に広げてくれる。



「穂瑠くん、お店出たし、キスしていい?」

俺の台詞に、クスと笑った彼は、静かに目を閉じた。



そして彼の唇に触れる瞬間、
胸の中のサンタの置物が、ほわっとあったかくなった気がしたんだ。



・。☆。・。☆.・。.Merry Christmas.。・☆。・。☆。・

 
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