クリスマスは君とチョコとクローバーシリーズ

□クリスマスは君と二人の記念日
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クリスマスは君と二人の記念日


☆☆☆☆☆


 夢ってなんだろうね? 
 大切ってなんだろうね?
 
 願うってなんだろうね?
 叶えるってなんだろうね?

 ねえ、そう言うのってさ、伝えるって事から始まるんじゃないの?


 だからもう一回、あなたと、始めようか?
 
 伝えれば

 ほら、進めるから



      *



12月11日(水)


「石川ー、今日の昼飯、どーすんの? まだ実験終わんねぇなら、弁当買ってこようか? 俺ちょうど区切りイイし」

 実験室の扉をちょっとだけ開けて廊下から顔をのぞかせた相変わらずイケメンな池本が、クリーンベンチで寒天培地入りシャーレとマイクロピペット持って作業中の俺に声をかけた。

(クリーンベンチとは、微生物などを使用して実験を行う際に、無菌状態で作業が出来る様、特殊な囲いで覆われた作業台です。シャーレとはガラス製の平たくて丸い入れ物。マイクロピペットとは、マイクロ単位の微細な液体の量を計れる特殊なスポイトです)

「おまえ、もう終わったのかよ。俺は唐揚げ弁当が食いたいけど」
「おうっ終わったよ。あ、弁当買い出しは手数料込みで900円です」
「もいっこ弁当買える手数料ってありえねぇだろ。つーか、冷めたの食べるのイヤだし、終わったら自分で買うよ」
「りょーかいっ」


 あっさり扉閉めた池本。時計見たら、もう12時もすぎてるし、実験終わってりゃ俺も買いに行けたのにな、なんて思ったけど、一度始めたら一気に終わらないと正確なデータが取れないから、仕方ない。
 結局俺は、その後40分ほどかけて大量のシャーレに研究対象の菌を植え付け、ようやく弁当を買いに出かけた訳です。

 弁当なくなってたらヤダな、って思いつつ足を運んだ売店には、唐揚げ弁当はなかったけど、お好み焼きは残ってたからソレを昼ご飯に買った俺。
 寒いからさっさと実験室帰ってご飯食べて、実験の続きしなきゃって歩いてたんだけど

「あ、祐くん」

って言う声に、俺は振り返った。そこにいたのは、穂瑠くんの働く雑貨店の娘である、倫子ちゃん。今年の春から俺と同じ大学に進学したんだ。

「学校で会うなんて珍しいね、文学部の方が工学部に何の用?」

 俺の質問に笑顔の彼女は「彼氏に会いに来たの」とさらっと言った。

「か、彼氏っ?」

 倫子ちゃんの彼氏だなんて、ちょっとびっくりで、俺は彼女の顔を凝視してしまった。
 
「祐くんだって、みのと付き合ってんじゃん。アタシより男同士の方が驚かれるはずでしょ」
「穂瑠くんとの事は倫子ちゃん以外誰にも知らないし。てか彼氏、どんな人?」
 興味津々な顔して彼女をみた俺に、また倫子ちゃんはさらっと言った。
「え? ああ、電子工学科に社会人入学してる人だよ」
「社会人って、もしかして結構年上?」
「ん、と、確か33だったかなあ」
 
「ええええ!」

 あまりの衝撃に叫んでしまった。俺より10も上だよ。

「叫ぶ事じゃないよ。つーか、アタシと彼氏、祐くんとみのが付き合い始めた頃と同じ時期から付き合ってるから、もう慣れ合いすぎてさぁ」

「ええええ!」

 二度目の叫び声です、俺。

「祐くん、うざい」
「あ……ごめん。でもびっくりして当然と思う。そんな大人の人とお付き合いしてるなんてすごいね、倫子ちゃん」

「そかな? でも年齢とか関係ないじゃん。あんたたち二人が性別関係なしに付き合ってんのと一緒でしょ?」

 言われて、妙に納得してしまった。

「そっか、そうだね。うん、偏見みたいなものが俺にあったのかもしれない。ごめん、倫子ちゃん」

 ペコリと頭下げて謝った俺に彼女は笑った。

「祐くんってそゆとこ、純粋だよね。スレてないって言うか、清いって言うか。あ、褒めてんだよ?」
「倫子ちゃん、それ、かなり上から目線」
「だって、みのなんて、まるで弟みたいだもん、初めて会った時、アタシまだ小6だったけど、なんかちょっと寂しそうな顔してたの覚えてる。ご両親が事故で亡くなった直後だったからかな? でも橋本さんといるときはイイ顔してたな。まあ、祐くんといるときの方がもっとイイ顔してるよ。だからみのと付き合ってる祐くんだって弟みたいに感じちゃう。可愛いしさ、二人とも」

 俺が可愛いなんてちょっと、ショック。

「どゆことよ。俺コレでも倫子ちゃんより5歳年上だよ? 確かに穂瑠くんは可愛いけどさ」

 俺の台詞にごめんごめんと笑う彼女。

「でもさ、二人見てたらなんかホッとするんだよね。ちゃんと好き合ってる同士が、お互い大切にしてるっていうかんじ? 傍にいることの大切さ、みたいな?」

 そんなこと言われると照れてしまう。
 
「なんか嬉しい気がする。ありがとう」

「ほら、そゆとこ、純だよね祐くんって。素直。可愛いよやっぱ」
「だから俺は年上だってのっ」
「ははっ、まぁイイじゃん。あたしはそんなみのも祐くんも好きだよっ、じゃ、あたしこっちだから、またね〜」

 ヒラヒラと軽く手を振って俺の研究室のある第二工学研究棟の前で彼女とは別れた。出会ったときから結構しっかりしてる子だなって思ってたけど、今さらながら、余計にそう思った。大人びてるって言うか、冷静って言うか。だけど凄くカッコイイよ。

 うーん、そう思う俺って、やっぱり倫子ちゃんから見て『可愛い』ってこと?
 でもせめて、穂瑠くんにだけは『カッコイイ』って言われたいな。

 ふと彼を思えば、急に穂瑠くんに会いたい、って胸がうずいた。

 穂瑠くんは実は結構寂しがり屋で「会いたい」ってよく言ってくれる。もしかしてそれが俺にも伝染したのかな?
 穂瑠くんは会えないとき電話口でほんとに寂しそうな声出す。そんな彼はとっても可愛い。もちろん一緒にいるときは嬉しいって顔だけじゃなくて声も何もかもで語ってくれる。
 俺にとっては、それが凄く幸せなことでして。

 でも最近は論文の追い込みで、何とか時間作っても夜くらいしか会う時間無いんだ。まあ、その流れで、おうちに泊まっちゃったりもして、ね。

 でもさ、やっぱデートとかしたいじゃんっ。
 寒い中、こっそり手繋いで、二人で歩きたいな。

 週末は就職先の研修があるからなぁ。でも、終わったら会いに行っちゃおっ。土曜だし。
 そんでそのまま、夜のデートだっ。

 そんなこと考えながら階段をあがる俺の足取りは、妙に軽やかだった。

  
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