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□第二章「甘く、降る雨。」
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 授業が終わり、後はホームルームを待つだけになった。俺たち特進は部活がないから、ホームルームの後は帰るだけ。基本勉強が優先。もちろん部活に入ることも許されているけれど、俺たちみたいなのが部活にいても、普通科の部活命な奴から結構嫌な顔されるんだよね。だから、特進の奴はほとんど部活やってない。俺もそのうちの1人。でも一応サッカー同好会って言うのには入ってて、部活ほどじゃないけど体は動かしてるよ。それに、せっかく学年主席で入ったんだからちゃんと勉強して出来れば卒業まで主席でいたいな、なんて小さな夢もあったりして。
 でも、俺文系だから江嶋先生の授業が難しくて既にちょっと凹み気味。と思った時、俺の後ろに座っている女子に声をかけられた。
 「篠原君もミスするんだぁ」って。

 彼女は世良沙耶香(セラサヤカ)さん。直毛の髪を胸くらいまで伸ばしてて、目もおっきいし肌も色白ですべすべな美人さん。でもそれより胸が超でかい、目の保養過ぎて困る。

「なに? 世良さん、俺は機械ちゃ、じゃないよ?」と

 胸を凝視しないように注意しつつ言えば噛んじゃった。

「あはは、滑舌悪すぎ〜。てか篠原君主席入学でめっちゃ頭いいじゃん、みんな注目してるよ」

 俺のしゃべりをさらりけなして笑った彼女。もういいけどさ。
 入学式の挨拶で既にめっちゃ噛んじゃってるから俺。みんな俺のこと笑い物にしてるし。(もちろん、母さんも)
 実は人前で挨拶するから緊張したんじゃなくて、江嶋先生が俺のことジーって見てたからドキドキしてしまって噛んだっていう、誰にも言えない理由なんだけどホントは。

 まあ、滑舌の悪さのおかげで、一気にクラスのみんなと仲良くなれたんだけどね。俺はそんな風にちょっと抜けてるって言う別の意味で注目されてる。
 でか、この世良さんはすでにクラスの男子が「俺、ねらってんの」と陰で話しているほどの巨乳美女なんだよ。俺より絶対注目度はかなり高いはずだ。

「俺数学苦手なんだよね。江嶋先生進むの早いし心配だよ。付いていけるかな」
「教えてあげよっか? あたし国語は苦手だけど数学は得意なの」
「えーっ、俺と逆じゃんっ。いいなあー」
「良くないよ。今だって先生に質問することがないから授業つまんないし」
「それ、確実に頭いい人の発言じゃね?」
「あはは、そうかも」
 あっけらかんと笑った世良さんはやっぱり美人で可愛い。気さくな人だし、モテて当たり前。

 オカシいなぁ。俺、ちゃんと女の子も可愛いって思えるし、こうやってしゃべるとちょっとドキドキするから、健全な男子な筈なんだ。
 ふと顔を上げれば、教壇から降りて教室を出て行く先生が見えた。先生も男のくせに、そんでけっこう日に焼けてるくせにあの人、肌がすげえ綺麗なんだよなあ。ああ、教えてもらうなら世良さんより江嶋先生がいいな、近くで顔みれるじゃん。もちろん上の空になっちゃうけど。と思ってしまったのはやっぱり健全じゃないかもしれない、と落ち込んだ瞬間、彼と目があった。

 その瞬間、ドクンッて心臓がはねたのは、俺の中で『こ』と『い』の文字が手を繋いでる所為だろうか?
 俺は今だこの気持ちがホントなのか分かんなくて戸惑ってる。というのに彼は容赦なく俺のとこに進入してくるんだ。

「篠原、ちょっと職員室まで来い」

 ほら、コレもいつもの事。
 俺のドキドキなんて知りもしないんだ。ていうかバレたらホント困るけど、いろんな意味で。

「ごめん、俺行かなきゃ」
「学級委員だものね。がんばってね」

 世良さんに謝って俺は彼のそばまで急ぐ。別に学級委員なんてなりたかったわけじゃない。勝手に江嶋先生が決めたんだ。入学式初日、委員決めを始めるときに『目があったから篠原、お前が学級委員だ。前に来て司会進行しろ』と有無をいわさず名指し。
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