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□第三章「痛い、日差し。」
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「俺、好き好んで学級委員やってるわけじゃないし、江嶋先生からもらうものなんて雑用ばっかで美味しいオコボレなんてありませんよ」
 ブチブチ反論した俺だが涼しい顔な日高先生。

「江嶋先生、生徒遣い昔から荒いからね。今からまた美味しい雑務もらいに職員室行くんだ? あははっ、頑張れよっ、ひっつき虫くんっ」
 結局比喩はやめずに笑って俺をけなしながらも形だけは励まして、渡り廊下前の階段で書道準備室の方へ去ってく。美人な先生だけど、口調がとても男勝りな日高先生。
 はあ、とため息で文句を消して、渡り廊下に進んだ俺は、9月のまだ熱くて痛い日差しを足早に避け、一人で職員室へ向かった。
 
 職員室に入って、先生のそばまで近づくと、ふわんといつもの彼の香水のにおいがする。何の銘柄かは知らないけど、ホントにいい匂い。この匂い、ずっと嗅いでたい。と思ってしまった。
 江嶋先生は歩み寄ってきた俺に気付いて机の上にある書類の束を指さした。てか、量がハンパない。何コレ?

「運動会の案内その他もろもろだ、教室まで運べ」

 この量を?

「先生、あの、こんなに沢山一人じゃ持ってけないし」
「分かってるよ、んなこた」

 先生、相変わらず言葉遣い汚いし冷たい。
 でもカタンと小さな音を発ててイスから立ち上がった先生はガシっと書類の束を半分以上を持って「残りお前な」と笑った。

 ああ先生、男前です。
って先生は男なんだから男前で当然じゃないかっ。

 あっという間にスタスタ歩いて職員室を出ていこうとする先生の後ろに残りの書類をつかんだ俺は慌てて付いていく。
 そしたら、ドア出たところで日高先生とすれ違った。
「お、小判ザメっ」

 その一言に、またもがっくり。確かにコレじゃその通りだけど。
 もう言い返すことはせず、ちょっとだけ睨んで彼女のそばを通り過ぎた俺。

「くくくっ、言われたな」
 はあ、俺を小判ザメ扱いしてる人がここにもいたよ。
 俺の目の前を歩く江嶋先生も睨んでしまった。

「先生のせいですよ、1学期からずっと学級委員してるなんて、この学校に俺以外誰もいませんよ」
「したらダメだというルールはないだろ?」
「無いですけど……もういいですよ、3学期も俺なんでしょ」
「それは俺が決める事じゃない。学期初めのクラスの意見だ」
「決定じゃないですか」

 前を歩く先生は歩みを止めずにあっという間に渡り廊下へ進む。半袖でむき出しの腕に当たる太陽光が痛いけど、書類のせいで早く進めないのが悔しい。

「別に困ってないだろ? お前はそんなにイヤなのか?」
 そう言われると、返答に困るんだよな。イヤって言うか。
「喜んでとは言いませんが、やる時はちゃんとやりますよ」
「ならいい」

 分かってる。イヤじゃないんだ。先生と一緒に二人だけでしゃべれるし、漂ってくる甘い匂いだって今嗅いでるの俺だけだし。
 はっきり言ってすげぇうれしいんだ。本心じゃ。

 でも、この胸の苦しさに、慣れない。

 先生? もし俺が『好きです』って言ったらどうする?
 生徒だし、足蹴には出来ないよね。

 てゆーか、その前に、俺男だし先生も男だし、根本的に何もかもが間違っててどうしようもないじゃん。
 告白なんて出来ないし。
 俺、やばくね? 30のおっさんが好きだなんてどうして。
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