パレット

□第四章「熟れゆく、果実。」
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 文化祭の俺らのクラスの出し物はカフェなんだ。まあよくあるメイドとホストって言うパターン。だけど、そのままじゃつまんないってコトで、クラスのうち男女それぞれ2人だけ性別入れ替えって言うことした。つまり男がメイドの格好。女がホストの格好っていうやつ。
 それ、クジで決めたわけだけど、なんとさ、メイドの格好のクジ引いたのが先生だった。つーか先生までクジに参加させた文化祭担当の神経の太さに拍手だけど。

 俺は当たらなかったからちゃんとホストの格好。クジ運の良さにホッとしました。まぁ、一年間学級委員って言うくじ運の悪さを露呈してしまってる俺だから、さすがに今回くらいは逃れたい訳でして。

 で、クラスの女子が先生に似合うカツラやら制服やらめっちゃがんばって、そんでもちろん化粧だってかなり気合い入れて。そしたら出来上がった先生が、これまたびっくりするぐらいのギャルで(笑)

 蜂蜜色の緩い巻き毛(胸の辺りまである)が焼けた肌によく似合ってた。ツケマをメッチャ盛ってて、しかも黒目がでかくなるコンタクトまで入れさせられて(用意した女子がすごすぎる)。先生は黒いメイド服の似合わない日焼け顔だったから、彼(彼女?)だけ茶系のメイド服で目立ってて、そして黙ってれば、女にしか見えなかった。もちろん高校女子には見えないけど大人の女性って感じの、ほんとに鮮やかな変身っぷり。

「オメーら、おっさんを飾りたててどーすんだ」つって笑ってた先生。

 もう少し声色変えてくれりゃいいのにさ。結局先生は地声のままで接客してた。そんで先生を女だと思ってた客が声聞いて唖然とすんの見て、俺ら生徒は爆笑しまくった。

 隣のクラスの日高先生までギャルな江嶋先生に大爆笑で『こりゃ貴重だね』なんて言って後で写メ撮ろうよと約束取り付けてたりして。

 先生と同じく運悪く当たりクジ引いたのは保健委員の勝山。老け顔の勝山はどうやってもメイドというか女にすらに見えなくて、ただ気持ち悪いの一点だった。しかも身長がありすぎて似合うメイド服がなかった。ウエストのファスナーが締まんなくて仕方なく腰のエプロンを変な位置にずらしてあきっぱなしのファスナー隠してたけど、接客中にエプロンが動いちゃって結局そこ丸見え。でも見えるのは男物のトランクスだから、お客から大ブーイングの嵐。
「お前、ちゃんと下着も着替えろよ!」
「汚いだけだろ!」
 でも完全なる汚点な女装勝山が「アタシの顔とココ見ながらコーヒー飲んでネ」とオネエ言葉を放つ。そのエセメイドっぷりに吐き気すらする事も、このカフェの醍醐味ってことで結構人気だったみたい。
 そして午前中が接客担当だった先生は、午後からは他のクラスの出し物とかいろいろ見て回ってた。しかもギャルのままで。

 俺は午後担当だから、ただ今接客中。男が黒いスーツ着てるだけで、別に笑いとかなんもない。誰にもいじられること無いから、楽っちゃあ楽。それより男装ホストが思ったよりかなりのイケメンで、お客の女性たちがそっちにキャーキャー言ってた。
 実はその陰で、俺たち男の立場って何? と密かに落ち込むホストが大量発生してたんだけどね。

 まあ、そんな微妙な接客の合間、ちょっとトイレと教室を抜け出した俺。用足ししてトイレ出たところで、ギャルメイドの江嶋先生にバッタリあった。そしたら、先生は俺の姿見て、しばらく『目が点』な顔してて、そのあと、にこりと笑った。

「お前、将来は商社マンか公務員ってとこか?」

 誉め方超微妙です先生。それになんでサラリーマン系なの? 一応ホストって設定で黒いスーツ着てるのに、実はまったくダメって事だよね……

「先生、俺……イケてないってこと?」
 
 それに吹きだした先生。

「あははっ。だって、どう見ても高校生なのに粋がって大人のスーツ来てんだから笑うしかねぇだろっ」

 図星でした……。
 わかってたけどさ。俺と先生じゃ15も年違う。先生は大人で俺はまだガキ。でもスーツ着たらちょっとは先生と釣り合う俺になれんじゃない? って少しは期待してたんだけど、全然ってことなんだよね。ああ、外だけ飾りたてたって意味ないんだよ、つまり。

 俺は悔しい気持ちで先生に言い返す。

「先生こそギャル仕様のオカマのくせになんなんですかっ」
「俺は結構可愛いじゃねぇか」
「それは女子の化粧レベルがハンパないからです」
「元がイイからダロ?」
「先生それって、俺イケメンって言ってるわけ?」
 
 確かに先生は綺麗な顔してるしマジでイケメンだけど、自分で言うなんてダメだよっ。
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