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□第五章「降り積もる、雪。」
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 巷では12月と言えばやっぱりクリスマス。恋人たちの至福の時間なんてモノが世の中の常識みたいな感じだけど、今の俺にとっちゃ、そんなの何にも関係ないわけで。

「後10分で終わりだぞ。見直しちゃんとしろよ」

 ただ今、期末テストの真っ最中。12月の頭にこの期末、そしてその結果を元に冬休みの補習授業コース(学力別)が決まる。特進はいつでもまず1に勉強2に勉強。どこまでいっても勉強が最優先。そりゃ恋人いれば俺だって、土日の休校日にはデートとかしたいけどさ、そんな人、俺にはいない。
 だから、目下この答案をどうやって満点にするべきかと必死に見直してるわけ。そしてこれは江嶋先生の担当の数学。はっきり言って超むずい。くそ、こんな難しかったら満点とかマジとれる自信ない。答案用紙はどこもかしこも不安だらけで俺は頭を抱えた。好きな先生の教科だからがんばろうって、100点取って褒められようって思ってたのに、ほんとに頑張ってテスト勉強したのに、これじゃ叶いそうにもない。
 そして、ついに鳴ったチャイムと同時に、はぁーってため息がでた。

「よーし、みんなよく頑張った。これで期末テスト最後だから、後はゆっくり復習でもして答案返ってくるの待つんだな。今日は連絡事項もないからホームルームは無し。解散していいぞ。気をつけて帰れよ」

 俺の落胆を余所に江嶋先生はざわつく教室で列の最後尾が集めた答案用紙を受け取りながら皆にそう声をかけて、ドアから出て行った。


      *


 12月21日の冬休み開始と同時に始まった補習授業、俺は何とか主席をキープして(次席の勝山と1点差)なんとか面目保った状態で受けられた。ちなみに数学は90点。やっぱり満点じゃ無かったから、先生には『まあまあだな』っていう曖昧な褒め言葉を頂いただけ。
 てか今日は25日でクリスマスなのにも関わらず、学校に来ればその気配なんてほとんど感じられない。目の前にあるのは味気ない教科書とか参考書とかで、街を彩る華やかなクリスマスイルミネーションみたいなモノがこの教室の壁にあったらいいのにな、なんてちょっと妄想をした。
 でも、目の前でまたも超むずい問題を解説している江嶋先生はどうなんだろうか? 今夜はやっぱり、彼女と一緒に過ごすのかな? しかも今日は金曜だしそのままお泊まりで、明日のクリスマス明けも彼女と街で買い物とかして、夜もやっぱり……
 ああ、そんなの、大人なんだから当たり前だよね……

 そんな事ばかり考えて上の空だったけど、今週の補習授業を何とか無事受け終えた。さあて、独り身のさみしいクリスマスはどう過ごそう? って考えたとき、後ろの世良さんからこんなお誘いの言葉を受けたんだ。

「篠原くん、今日みんなで遊ばないかって話してたの。あなたも来ない?」
「え? 俺? いや、空いてるけど、そゆ世良さんこそ彼氏と予定あるんじゃないの? 昨日のイブも補習だったしデートできなかったでしょ?」
「彼氏ね、今週ずっと部活の強化合宿でいないのよ。だから」

 あー、なるほど。そう言えば世良さんの彼氏は男子バレー部の部長だったはず。もちろんかなりのイケメンだ。確か夏休み明けころかな? 付き合ってるって噂聞いたの。

「メンバー誰なの?」
「女子はあたしと、恵ちゃんと、美香と、のりこ、男子は池本くんと勝山くん、あと隣のクラスの竹内くんを誘うって勝山君が言ってたよ。でも男子1人足りないし、来てくれないかなぁ?」

 要するに穴埋め要員ですね、俺。

 でも誘われるだけラッキーかな、と思い直した俺は彼女にOKの返事をした。じゃ、待ってるねと笑顔で教室を出た世良さん。
 集合は駅前に午後5時、まだ3時だから、家帰って着替えた後でも超余裕で間に合うな、ってこの後の用事を考えつつ帰る用意してたら、
「篠原、悪い、すぐ終わるからちょっと手伝ってくれ」
と声が掛かった。教壇から降りて教室から出る途中の江嶋先生だ。
「はい、分かりました」
 さっと返事して、鞄持って俺は先生の後を追った。みんなに配るプリント整理かな? と思ってたから行く先はてっきり職員室と早合点した俺だったけど、先生の向かった先は美術室だった。
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