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□第六章「変わる、棘。」
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「さっすが篠原!」
「主席はちがうねぇ!」

 教室は拍手喝采だったけど、俺は、こうでもしなきゃ先へは進めないって感じてたから。
 江嶋先生は「そっか、じゃあ篠原頼む」と言っただけ。俺は席を立って教壇に行き、彼の作業を手伝った。そして学級委員以外の委員会決めやその他の係も俺と同じように二学期と同じメンバーで続行と言うことになり、あっという間にHRは終わった。ふつうなら、始業式後にそう言った決め事するはずなのに、うちのクラスはほんとに決議が早い。それは江嶋先生の影響なんだろうけれど。
 そんなことで体育館で行われた始業式後に予定されてた学活もうちのクラスはなくなってしまい、「やることねぇから今日はもう解散だ」と先生が呟いた。
「やった! 帰れる〜」
 と大喜びの生徒たちに先生が、
「明日からは6時間の通常授業だからな、気ぃ抜くなよ」
と軽く釘を刺せば、
「すでに補習授業でみっちり予習できてますよー」
って返答した奴もいたりして。
 鞄に荷物を詰めて席を立とうとしたとき、俺の後ろにいる世良さんが小声で話しかけてきた。
「ねえ、篠原君、聞いた?」
「え、なに?」
「あのね、池本くんとのりこ、つき合うことになったんだってっ」
 世良さんが言うにはあのクリスマスの後かららしい。
「嬉しいよね」と笑う世良さんのように、俺は心そんな広くない。なんか自分がすごく情けなくなった。あの日、俺は叶う事なんて無いだろうと分かっているのに、先生に告って逃げちゃったんだから。
「そっか、よかったね」
 とだけ、返事をしたら「篠原くん、もしかして、悩んでるの?」と顔色を伺われた。
「あ、いや、大丈夫」とブンブン手を振って誤魔化したけど、
「篠原くん、片思いだって言ってたもんね。前も言ったけど手伝うよ? 何でも言ってね」
って恋煩いなのバレバレでした。だけど担任に告白しましたなんて言えるわけ無いじゃないか。
「ありがとう世良さん、その時がきたら、お願いするかも」
 とだけ感謝を述べて、俺は教室を出たんだ。


   *


 翌日、6限までフル稼働な学校。そして全く代わり映えなく滞りもなく授業は進む。俺たち特進は冬休みも補習授業いっぱいあったから中だるみだとか、気のゆるみとか、そう言うのには無縁で。俺は通ってないけどクラスのほとんどの奴が塾もあるし。勉強ばっかで超つまんないって思ったりしないのかな?
 あ、そういう風に考えるのは中だるみって事? いや、ただ恋人のいない俺の妬み、みたいな物なのかも。
 でも、今日の江嶋先生は、朝のHR終わりに職員室来い、って呼んでくれたんだ。そして並んで俺と廊下歩いた。でも結局、しゃべれなかったんだ。先生じゃなくて、俺が。
 どうやってしゃべってたっけ? って考えても思い出せない。分からなかった。だから先生が
「冬休みの補習のまとめテスト、お前が一番だったよ。よくやったな、篠原」って言ってくれた声に、「あ、ありがとうございます」って返事しただけだったんだ。せっかく先生が話振ってくれたのにまともな返答すら出来ない俺。もう自己嫌悪しか感じなかった。


 今は昼休み時間。弁当も食べ終わってクラスの中は皆、思い思いにしゃべってザワツいてる。俺の目の前にいる勝山もなんか下らないこと話してたけど、それに適当に相づち打ちながら、俺ずっと先生のこと考えてた。
 あのクリスマスから俺、全くなにもしてない。せっかく学級委員に立候補したのに、それも有効活用できてないんだ。あなたと一緒にいれば、もしかしたら、って思ったんだけど、彼との今までの距離感みたいなのが全くわかんなくて、ギクシャクしたまま。
 したら、ぼーっとしてた俺の目の前で、池本が嬉しそうに彼女になったのりこさんと笑顔で話してた。いいなぁ、あんな風に先生とも自然に仲良くできたら、どんなに楽しいだろう……。
 彼らの姿が俺の目には痛くて、尖った棘みたいに感じる。

「池本、幸せそうに話してるな〜」
 こそっと勝山が呟いてきた。
「そだね。今日はデートかな?」
 と俺が返せば「たぶんな」と勝山は言う。そして、
「……なあ、篠原、お前の好きな奴って誰なの?」
といきなりの一言を放ったんだ。それはコイツがいつも俺の背中にくらわす平手打ち並みに強烈で、
「な、な、なん、だよっ」
って俺はまともな返事すら出来なかった。

 でも勝山は、俺の顔じっと見て言った。
「なんかさ、年明けからお前なんか変だな、って思ってたんだよな。もしかしてクリスマスの帰り、世良さんに告白して振られた? って考えたんだけど世良さんとお前の様子、二学期と変わんなかったし、世良さんとはやっぱりただの友達っぽいし。ってことはお前は俺の知らない誰かに告ったとしか考えられない。という結論を導き出したわけだよ」
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