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□第九章「晴れやかに、恋。」(完)
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「あれ? 篠原、どうした?」

 美術準備室の扉を開けた江嶋先生が、何でお前がいるんだ? という顔を見せる。そして、すぐに彼は気付いた、俺が持っているものを。
「……篠原、それ……女子から」
 その彼の顔を見た瞬間、俺は叫んでた。
「先生っ、俺、生徒会長、やりますっ!」
「え……? え……あ、ああ、本当か」
 いきなりの俺のやります宣言が予想外だったのか、こんどは驚いた顔を見せた。
「はい。先生、俺がんばります。だから先生、俺を見て下さい。先生がびっくりするくらい、イイ生徒会長になって見せますから、絶対……絶対っ、俺のこと見てて下さいっ!」
「……篠原、お前」
「俺、ガキで、ヨコシマで、動機なんて、完全に不純です。でも、でも、それでもイイから、先生が俺を見てくれるなら、俺マジでがんばりますっ」
「お前、ホントに……」
 俺の声に、先生は、ものすごくイケメンな顔で笑った。
「約束する、俺はちゃんとお前を見てる。それに、俺はこれまでもお前が気付いてない瞬間だって見てきたつもりだ。だから、安心しろ。お前は誰より立派な生徒会長になるよ」

 その瞬間、俺は先生の【信頼】を勝ち取ったんだ、って思った。それは俺が本当に欲しい彼の【好き】っていう感情じゃないけれど、それでも、俺はこの学校で彼に一番信頼されてる生徒なんだって思った。

「じゃあ、会長は決まりな。後は副会長や書記を決めなきゃなんない。お前の友達を選べばいいよ、別にそれは急がないけど」
 先生は明るい声で言う。しかも「勝山でもいいぞ。お前、勝山と仲いいだろ?」ととんでもないことをのたまった。
「いや、勝山はっ」
 だってあいつ、いっつも暴力振るうし、ちょっと変だし、頭はいいけど。
 でも先生が「体育祭や文化祭向けだと思うんだけどなぁ」と呟いたので「ああ、なるほど。確かに」と妙に納得した。
 そこで、はた、と気付いた俺。
「え、? 先生? なんで俺が他の生徒会役員を決めなきゃなんないんですか?」
 会長ってそんな権限まであるのかよっ、ってちょっとどころじゃなく、びっくりした。
「別にそんな規則はない。でもお前の親しい奴の方が、お前が仕事しやすいだろ? だからうちの学校ではほとんどそうしてるんだよ」
 先生の言葉にまた納得してしまった。
「わかりました。誘ってみます、やってくれるかわかんないけど」
「さっそく会長らしい一面を見せるな。篠原、さすがだよ」
 先生が、フワフワと笑った。なんか、すっげぇ嬉しそうに。その顔見た瞬間俺は瞬間湯沸かし器見たいにかあっと顔が赤くなってしまった。
 ああ、かっこいいイケメンの先生が、あんな優しい笑顔みせてくれる。もうやばい。すげえ綺麗。どうしよう。俺が嬉しすぎてもうやばいっ!
「わっ、し、篠原っ、なに照れてんだっ」
「す、すみませんっ、すみませんっ」
 ぺこりぺこりと頭下げて赤い顔を彼の視界から隠す。したら俺、ようやく思い出したんだ。世良さんが用意してくれたチョコを持ってることに。だけどそれ、俺が握りしめすぎて、箱が変な形に変わっちゃってる。

「わぁっ、潰れてるっ」
 俺の声に先生はどうした?とハテナ顔。そして彼の視線も俺の手に。そしてああ、と小さな声がした。
「折角もらったのに、残念だったな、でも少し形が崩れたところで味が変わる訳じゃない」
「ちっ、違いますっ」
 誰かが俺のこと好きでコレを俺に渡した訳じゃない。だってコレは世良さんが俺の背中押すためにわざわざ持ってきてくれたチョコなんだ。でもそんなこと先生に言えない。日高先生だけじゃなくて世良さんまで俺の気持ち知ってるなんて先生には絶対伝えられない。
 違いますの声に「え?」と言った彼を見つめた。でもイイ言葉なんて思いつかない。
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