Monsterシリーズ

□Monster
15ページ/23ページ


    *

 だけど駿と別れてすぐ、俺は警察のひとに呼ばれてさっきの話を聞かれて、なんか仕事をした気がしなかった。
 あっという間に5時になっちゃって、作業リストをこなせなくて残業したから、もう7時過ぎ。

 マキに終わったよってメールしてから、俺は着替えてビルを出た。
 梅雨に入ってからは雨ばっかりだったけど、今日は晴れて月がよく見える。

 空が雨にきれいに洗ってもらったのかな?
 マキに初めて会った時みたいな満月を見ながら、俺はマキのマンションへと足をすすめた。
 あの時出会った黒アゲハ。ちゃんと花の蜜飲めてるかな?
 俺は残念ながらマキの血飲めてないんだけどね。



ーピンポーン

 インターフォンをならしてマキにドアを開けてもらう。

「お疲れさまです」

 マキは笑顔で迎えてくれた。

「ただいま。お腹すいたよね。なんか作るし」
「それより先にお風呂入ってください。もうすぐピザ届きますから」
「え? 注文したの?」
「俺も怪我で何も手伝えないですしね。だから」

 マキは優しい。こうやって俺に気を使ってくれるし、いつも何でも先回り。
 どうしてこんなに優しいのかな?
 マキにありがとうって言ってから俺はお風呂に入った。

 体を洗いながら思った。
 マキ、怪我でお風呂入るの大変だっただろうな。
 明日は、俺が背中流してあげよう。
 俺だってちょっとは、マキの役にも立ちたいよ。

 お風呂からあがったらマキがピザをテーブルに並べていた。

「ありがと」
「結城さん、食べましょ」

 俺の腕を引っ張ってぎゅってくっついてくる。

 そして、チュっってキス。
 食べよって言っときながら俺にキスするなんて。

「マキ?」
「結城さん、好きです」

 はにかんでマキが言う。

「さっきも聞いたよ?」
「でも何回も言いたいから」

 マキ・・・可愛い。

 ・・・・・・あれ?
 マキ見てたらなんか、すごくドキドキしてきた。

「俺もね、マキが・・・」

 好きって言おうと思ったんだけど・・・・
 言えなかった。

 マキがハテナ?って顔してる。

 俺はそれをごまかすように彼にキスして「お腹すいたよ。食べようよ」って言った。

 
 なんだろ? 好きって言えない・・

 俺はピザを食べつつ考えてた。

「おいしくないですか?」

 そしたら俺が何も言わずに食べてたからか、マキが心配そうな顔して聞いてきた。

「おいしいよっ、うんっ」

 俺は慌てて返事をする。
 マキがジッと俺を見つめてる。

「もうっ見ないでよっ」

 なんか恥ずかしくなって俺はマキに背を向けたんだ。

 そしたらマキ、首筋にキスしてきて、俺はビクッてなってしまった。
 マキが、耳に吐息のかかる距離で囁いてきた。

「結城さん・・・・・・大好きです」

 きゅうって胸が音をたてたみたいになって
 苦しくなって・・・・俺は口を抑えた。

 俺も大好きだっ
 って心の中で叫んだんだけど

 そして、言おうと思って振り返ったんだけど

 マキの瞳見たら
 もっと苦しくなって
 俺は口を半開きにしたまま何も言えなくなった。

 顔が熱くなってくる。

「あ・・・ぅ・・マキ・・」

 名前だけ呼んだ俺をマキが見てる。
 マキの顔がなんだか苦しそう。

「結城さん・・・・・・今、あなたが思っていること、俺に・・・・・・言ってくれませんか?」

 顔よりも、もっと苦しそうな声で俺に言ってきた。

 俺は視線を天井へと反らした。
 そして目をつぶって深呼吸したんだ。

 言いたい
 でも言えない
 どうして?

 好きの一言が

 こんなにも言いにくいなんて

 初めてだ



 ぎゅって、マキが抱きしめてきた。
 俺はその温もりに力をもらって、そっとマキのほっぺたに手をそえる。

 マキの茶色い瞳を見つめて、言うんだ、好きって。

 だって
 ほんとなんだもん


「大好きだよ、マキ」


 そしたら、茶色い瞳からぽろっと涙が零れてきた。


「マキっマキっ泣かないでよっ」
「・・っうれしいっからっ・・」

 俺はそっと泣いてるマキにキスした。

 初めてマキが俺にしてくれたみたいな、優しいキス。


 『マキが、好き』

 ただ
 その気持ちだけを込めて
 キスをする。


 マキの血を吸いたいって
 それが目的で
 マキの近くにいたのに

 マキが抱きしめてくれる腕も
 マキが好きって言ってくれる事も
 マキとキスする事も
 マキとセックスをする事も


 恋人のふりだと思っていたはずなのに
 なんか、ほんとにうれしくて
 幸せで、ドキドキで

 いつのまにか
 こんなに、好きになってた
 マキが、大好きになってたんだ


 俺、そばにいたいよ。
 ずっと。

 でも、俺、人間じゃないんだよ・・・・・・


☆☆☆☆☆
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ