Monsterシリーズ

□明日の記憶
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     *


 就業時間の終わりを告げる5時のチャイムが鳴り響き、俺は早々に会社をあとにした。朝注文しておいたプレゼントをお店に取りに行く為だった。

 過去に付き合った女性にプレゼントをした事はあったけれど、男性には初めてで・・・まあ、男と付き合ったのも初めてだから仕方ないとはいえ、一体何をあげていいのか非常に迷ってしまった。
 結局定番のネックレスになってしまったのだけれど。

 イニシャル付きのネックレス。
 あなたに似合う優しいプラチナのネックレスだ。
 あなたと俺のイニシャル、Kがついたもの。

 一応ペアとして購入したものの、俺は装飾品をするのが苦手だから、ずっと引き出しに仕舞っているんだろうな。
 と未来を簡単に予測して俺は少し自嘲してしまう。

 そしてアクセサリーのお店で綺麗に梱包された商品を受け取った俺は足早に自宅へと戻った。
 結城さんは案の定まだ来ていなかったので俺は風呂に入ってから、ケーキと夕食を配達業者から受け取ってテーブルに並べていく。

 一通り準備の終わった部屋を眺めて満足した俺は、自室に戻ってパソコンを開いた。仕事の続きと新しいプログラミング技術の勉強をしようと思ったから。




ーピンポーン


 ふいにチャイムが鳴った。

 時計を見ると8時。もう1時間半近くパソコンに向かっていたみたいだった。
 一体こんな時間に誰だろう。

 結城さんは合鍵を持っているからインターホンは鳴らさないはずだ。

「はい」

 インターホンの通話ボタンを押して声をかけると聞こえたのは、
「マキ?ドア開けて。絵都連れて来たから」
希山さんの声だった。

 連れて来たって? どうして?
 希山さんが……


 疑問を感じつつ俺は言われるままにドアを開ける。

 すると結城さんを抱きかかえた希山さんがそこに立っていた。

「邪魔するよ」

 ひと言呟いてズカズカと家の中に入ってくる。
 そしてベッドルームへと進み結城さんを降ろした彼は
「じゃあ、あとよろしく。約束してたんだろ?」
とだけ言い、帰ろうとした。

「待ってください。一体何が。。。説明していただけませんか?」
「墓参りの途中に倒れてただけ。大丈夫、いつもと同じだよ。気絶してるだけだから。そのうち目が覚めるよ」

 いつもと同じ?
 どういうこと?
 結城さんはキスやセックス、血を飲んだときしか意識を失わないはずだ。
 誰かと………

 脳裏に浮かんだ情景に嫌悪感を感じすぎて気持ち悪くなった俺は
「もう少し、説明してくださいませんか?」
と彼に食い下がった。

 じっと俺を見つめていた希山さんは、ふう、とため息を一つしてから話し始める。

「あんたの心配するような事は何も無いよ。絵都は血を飲んでいないし誰ともセックスしてないから」
「じゃあ、どうして。。。。」

 彼のひと言に安堵した事は確かだが、理由も無いのに気絶するなんておかしいという疑問が湧いてくる。

「俺たち吸血鬼は血を飲んだりセックスしたりしたら気絶するもんだ、って思ってない?」
「違うんですか?」
「ははっ、気絶するのは絵都だけだよ。俺は気絶しないよ。俺以外の吸血鬼もね」

 世の中、知らない事だらけとはいえ、結城さんに関しても知らない事だらけで俺は少し悲しくなった。
 どうして教えてくれなかったんだろう。

「まあ、絵都もなんで気絶するのか分かってないみたいだから、あんたに何も言わなかっただろうけど」

 そう言って彼は過去の出来事を話し始めた。



「絵都が気絶するのは子供のときのトラウマが原因なんだ」
「トラウマ?」
「俺も聞いた話だけどね。14才の自分の誕生日に、初めてひとを食べちゃったんだ。まだ加減も分からなくて、血を吸いすぎてヒト1人ひからびさせちゃって。。。まあ、つまり、殺したってことだけどね」

 そう呟く希山さんは、遠い目をしていた。
 彼も、同じような経験があるのかもしれない。

「目の前でひからびて粉々に崩れていく中学の同級生を見て、絵都は気を失ったんだ。それがトラウマになって、今も血を吸ったあとは気絶してる。もしこの後にあの時のように死んでしまったらどうしよう。と言う不安が心の奥底にあって、吸血後の人間を直視できないんだ」

「そうだったんですか……ではなぜ今意識を失っているんですか?」

 トラウマの原因は分かった。でもそれがどうして今気絶しているのか理由が分からない。

「ああ、これはね・・・・通るつもり無かったんだけど、通っちゃったんだ。昔と町並みが変わってたから気付かなくてさ、初めてひとを食べた場所を。そして、その情景を思い出して、絵都は倒れた。だから大丈夫、そのうち目が覚めるから。俺と一緒に墓参り行っててよかったよ」

「分かりました。では、目が覚めるまで俺は様子を見ておきます」

 深々と希山さんに頭を下げた俺に
「ああ、頼むよ。でも初めてヒトを食べた日は、2日間気絶してたらしいよ。がんばってね」
と言葉を残して彼は去って行った。

 ……2日?
 って日曜の夜まで?

 あまりの長さに、用意した食事とケーキをどうしよう。。。と思ったけれど、仕方ないので冷蔵庫にそれらをなおし、簡単に別に食事をとった俺は彼の隣に横になった。

 起きていても仕方ない。
 それに、結城さんが目を覚ましたとき、となりに誰かいないと寂しいのでは?と思ったから。

 しかし布団に入ったとたんに強い眠気が襲って来た。
 今朝は異様に早起きをしたからかもしれない。
 俺はその眠気に身を任せ、あっというまに深い眠りについた。
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