Monsterシリーズ

□楽園
2ページ/8ページ

告白【マキ】

☆☆☆☆☆

「この間取り、いいよね? ほら、ベランダも広いし俺の部屋もマキの部屋からもベランダ行けるよ?」
「そうですね」

 俺の隣で、熱心に部屋の間取り図を見ながら、結城さんは嬉しそうにしゃべっている。今俺たちは近くの不動産に来ていた。二人で住むための部屋を探しに。俺の今の部屋は少し手狭だったから。

「でも、俺は、ここ。ちょっとやめたいです」
「どうして?」
「西向きなんです、ベランダが。出来れば、南向きがいいので」

 そう呟いた俺に、お店の人が南向きの窓のある所を調べてくれた。

「あ、これ、南向きだね。で、部屋も、ちゃんと3つあるし、よくない?」
「ええ、じゃ、ここ見に行ってみますか?」

 そう言って住所を見たら、笑ってしまった。

「あっ、今のマンションですよ」
「え? ほんとだぁ、そっか、マキは3階で、これは最上階の7階の部屋なんだ」
 思いがけない偶然だったけど、ここに引っ越すのではないかという予感がした。きっと、いい部屋だろう。
 見学に行った部屋は、想像通りだった。同じマンションだから、今の部屋と雰囲気も似ているし、なにより、7階からの眺めがとてもきれいだ。
 同じ景色なのに、高さが変わるだけでこんなにも美しさが変化するとは思っていなかった。

「いいね、ここ。他の部屋も見てからでいいと思うけど、俺、気に入ったよ」
「ええ、俺もです。決めちゃいましょうか?」

 そう言った俺たちは、即決して、この部屋に引っ越すことした。


     *

−−−−−−2週間後


 俺たちは荷物を整理して今までの部屋から引っ越しの最中。各自の部屋は後で自分で整理するから、今はリピングと寝室、キッチンの整理。リビングに置くソファーは俺の持っていたものを使用している。ベッドは新しく新調した。今までのセミダブルは狭かったので、クィーンサイズのものを買った。男二人だから、ダブルでも少し狭いかな、と思っていたから。

「これからは、ゆっくり寝れますかね?」
「え? 今まで実はゆっくり寝られなかったの?」
「いいえ、そんなことはりませんよ。でもあなたがいるなら、いつでもゆっくり寝る前にやることがありますので」

 そう言って、彼を抱きしめてキスをした。そのままベッドに倒れ込む。

「ちょ、っと……アッ、まだ片付けが。んんっ」
「広いと、セックスしても布団が落ちませんね」
「も。。マキっ、、、後でしよーよっ」
「はい、わかってます」

 俺は名残惜しく思いながら彼を抱き起こした。少し上気した顔の彼にもう一度キスをして、二人でベッドから降りる。

「早く片付けよっ。そしたら。。。」
「します?」

 言いかけた言葉を続けて言うと、結城さんの頬が赤くなった。

「結城さん、、やっぱり今しましょっ」
「あっ、、ダメっ、、、ふああっ」


 結局我慢が出来なくなった俺だった。



    *


「ん、、、、、もぅ、、、マキのバカ」

 目が覚めた彼に俺は彼に責められた。

「すみません。でも、あなたとこうやっていられることが、ほんとに嬉しいんです」
「俺もだよ。マキ、これから、よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 そして軽くキスをした。

「片付け、続きしよーよ」
「はい」


 俺たちは各自の部屋の整理に取りかかった。8畳ある俺の部屋に、荷物の入った段ボールが所狭しと並べられている。今日中に片付けを終えるのはきっと無理だが、出来るだけしておかないと。
 俺は、閉じられた段ボールを開けはなした。


  *


ーその夜

「結城さん、来週末、予定なければお出かけしませんか?」

 片付けに区切りを付けて、晩ご飯を食べた俺たちはソファーでくつろぎながらお酒を飲んでいた。

「大丈夫。どこ行くの?」
「俺の、実家です」
「......え?」

 引っ越しを決めた時から、思い続けていたことを俺は口に出した。

「あなたを、親に会わせたいんです。父は離婚してもういませんが、実家には母と祖父母がいます」
「でも女じゃないよ、俺……」
「俺が愛している人は、あなただから、だから、あなたを紹介したいんです」

 あなたが、たとえ傷つくことになっても。たとえ、親に勘当されたとしても。あなたを、見せたい。俺の愛している人を。
 それが、親孝行になると思うから。

「マキの気持ちは嬉しいけど、親御さん悲しむと思うよ。だって……子供も出来ないんだよ、もちろん、結婚さえ無理だし」
「ええ、分かっています。でも、俺が一生一緒にいたいのはあなただから。だから、それを伝えたいんです」

 俯いてしばらく押し黙っていた彼だったけど、
「・・・・・分かった。行くよ」
と、顔を上げてくれた。

「ありがとうございます。あなたに、辛い思いをさせてしまいますね。ごめんなさい」
「俺より、親御さんの方が辛いよ」

 苦しい顔でそう言う彼を、俺は抱きしめた。あなたの優しさに、俺はいつも甘えてしまう。
 誰よりもつらいのは、彼なのに
 ごめんなさい

 ありがとう、結城さん

「じゃあ、今から電話しておきますね」

 そっと抱きしめていた腕をほどいて、俺は立ち上がった。


 たまにかける親への電話。これほど、緊張したことは無い。俺は、今から、俺の家族を試すのだから。一体どんな反応をするのだろう。

『はい、牧田です』

 数回のコールの後、電話越しに聞く母の声が、俺の緊張を更にあおった。
「母さん、俺です、和義です」
『あぁ、和、ひさしぶりね。元気だった?どうしたの?』
「元気ですよ。母さんは?」
『元気よー。おじいちゃんもおばあちゃんも元気よ』
「それは、よかった」
『で? 何かあったの? あんたは用事がある時しか掛けてこないからね』

 俺の無精さを軽く責められた。

「すみません。音沙汰なくて。実はですね。引っ越ししたんです」
『引っ越し? もういつの間に。言ってくれたら、手伝ったのに〜。明日行こうか』
「いいえ、大丈夫です。えっと、住所なんですけど……」
『あれ? 前と変わってなくない?』

 ここの住所を教えたら、すぐに母は気付いた。

「ええ、3階から7階へ移動したんです」
『へー。どうして?』

 そう言った母に、ついに本題を伝える時が来た。俺の心臓が、ドクドクと早鐘を打っている。

 怖い・・・
 でも・・・・・・
 伝えなければ・・・・・・

「二人で、住むことにしたんです」
『それって彼女と!?』
「いえ、女性ではありません」
『じゃあ、友達と住むの? シェアリングとか言うのよね、そう言うのって』
「いいえ、それも違います。母さん、落ち着いて、聞いていただけますか?」
『何?』

 何を言っているのか分からないと言う声で、母は俺の言葉を待っていた。

「俺、一生一緒にいたいと思える人に出会ったんです。その人を、愛しています・・・でも、その人は・・・・男性、なんです」
『・・えっ?・・・おとこ?』
「はい・・・そうです。結婚も出来ないけど、でも、彼を、愛しています。だから、一緒に住むことにしたんです」

 驚いて、何も言えない母に、俺は、淡々と、話していく。

「来週の土曜日に、彼を連れて、そちらに行きたいと思ってるんです。母さんに紹介したいから……いいですか?」
『・・・・・・うん。分かった。待ってるね』
「よろしくお願いします。じゃあ、一週間後に」

 俺はそう言って電話を切った。

 結城さんが後ろから抱きついてくる。
 受話器をもどして、俺は胸に回された彼の手のひらをぎゅっと握った。

「マキ……ありがとう」
「いいえ、俺こそ、すみません。俺のわがままで」

 彼に向き直り、俺は抱きしめてキスをした。

 この人を、愛してる。
 だから、お願いします。

 俺を、この人のそばにいさせてください。
 もう、結城さんだけなんです。

 俺が抱きしめてキスしたいひとは・・・・

☆☆☆☆☆
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ