Monsterシリーズ
□楽園
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楽園【マキ】
あ、れ・・・・?
目が覚めたら、結城さんの姿は無かった。時計を見ると、もう、6時。いつの間にか、3時間ほども寝ていたらしい。俺はベッドから起き上がって、1階のキッチンへと足を向けた。
ドアを開けて中に入ると、結城さんと母さんが仲良く料理をしている。
「あ、和、おはよ。もうすぐ出来るよ、晩ご飯」
「寝てしまいました。お手伝いできなくてすみません。母さん、結城さん」
「良いのよ。絵都くんが手伝ってくれたし、料理上手ねぇ〜。絵都くん」
「か、、絵都くん?」
「え? 何、だめ? いいでしょ? 名字なんて、かたっ苦しくってさっ」
「あんたもほら、結城さんなんて呼ぶのやめなさいよ、恋人なんだから、絵都でいいでしょ? で、絵都くんは、和って呼べばいいじゃん、結城さんとマキはもう、おしまいねっ」
強引に勝手に呼び名を決めてきた母に、俺と結城さんはお互いの顔を見合わせて苦笑をした。
「なーに? 気に入らない? んじゃ、和と絵都って呼ばない限り、ご飯無しねっ」
「お母さん、意味分かんないですよ。呼び名なんてどうでもいいでしょう?」
「私がイヤなの。んじゃ、私の前だけでも、絵都と和でいなさいっ。絵都くんは私の息子になったんだからねっ、息子同士が名字で呼び合うなんて、親としては許せませんっ」
「かあさん、、、、」
いつの間にか、結城さんは息子になっていたらしい。俺の寝ている間に、二人の間に何か、とても素敵な事が舞い降りたのかもしれない。母と結城さんを包む空気が、昼間と違い緊張感も無くなっていて、すごく優しいく感じられるのは、きっとそのせいだろう。
「今日の晩ご飯は、なんですか? 絵都」
俺は、絵都と初めて呼んだ。
少し照れくさい気持ちで、、、
だけどそれ以上に、呼ばれた結城さんが、顔を真っ赤に染めていたから、あまりにも可愛いすぎて、抱きしめたい衝動を我慢する方が大変だった。
「えっと、、、、お刺身と、肉じゃがと、、お吸い物。。。だよ。。か、、、かず・・・っ」
和と呼んだ後は真っ赤な顔を俯かせて、くるっと後ろを向いてしまった。そんな彼を見た母は、
「あははっ、もうっ、絵都くんは純情だわね。大丈夫よ、すぐ慣れるから」
彼の背中を優しく撫でて、
「もう、手伝いはいいから、ソファで和とくつろいでて、ありがとう」
そっとその背中を押して、リビングへと促した。
結城さんは、赤い顔のまま、俺のとなりにきて、俯いている。俺は、そんな彼の手をとり、一緒にソファに座った。
「絵都、寝ててごめんなさい。起こしてくれたら良かったんですよ?」
「だって、、マキが、、、あ、、か、、かずっ、、が、、キモチ良さそうに寝てたから」
たどたどしく、かずと、呼んでくれる。そんな、甘い声が、俺の耳朶を刺激して、もう、俺は我慢が出来なくなって、親の前だと言うのに、彼を抱きしめて、キスをしていた。
「ん、、、、、っ、、、、ぁ、、」
チュっと音を立てて彼の口から離れると、真っ赤な顔のままで俺を、潤んだ瞳が見つめる。
「ふふっ、キスも、見られちゃいましたし、もう名前呼ぶ事なんて恥ずかしくないでしょ?」
「え、っ、、あっ、、、」
唇を押さえて母を見て、目が合った結城さんは、すぐに俯いてしまった。そんな彼を見つめて、笑顔の母が言う。
「んー、ラブラブねぇ、若いっていいなぁ、てか、いつまでもラブラブでいなさい。じゃないとお母さん泣いちゃうからねっ」
「あなたを泣かせるような、親不孝者ではありませんよ。心配しなくても大丈夫ですから」
「あーら、よく言うっ。じゃ、これからは毎月一度は顔見せに帰ってくること。電話も全然しないし、滅多に家に寄り付かないっていう、今までの親不孝者を返上しなさいよ」
俺は結城さんを見つめて、
「これからは、絵都と二人で、月末に遊びにきますよ。だから、月終わりの土曜日は、空けといてくださいね」
声だけで母に返事をした。結城さんは、まだ少し赤い顔のままで俺の手を握りしめている。
「、か、、かず、、ありがと。。」
「いえ、こちらこそ、母と仲良くしてくれてありがとうございます。少し変わってますけど、これからよろしくお願いしますね」
そんな事無いよ、ステキな、おかあさんだよ、と言った結城さんは、いつものふにゃっとした笑顔で優しく微笑んだ。
*
「かあさん、今日はありがとう」
「次はおじいちゃんとおばあちゃんの相手したげてねー。待ってるから」
「お邪魔しました、ありがとうございました」
「お邪魔なんてしてないわよ、また来てね〜、てか、約束通り、今月末も来なさいよ」
「分かりました。また月末に」
食事も終わり、8時頃までゆっくりとした時間を実家で過ごした俺たちは、母にお礼を言って、家路へとついた。電車を乗り継いだ後、いつもの見慣れた町並みの中をマンションへと歩いて帰っていく。
そしてマンションの最上階、7階の部屋で俺たちは少し疲れた体をソファに沈めて、ゆっくりとお酒を飲んでいた。
「月。。綺麗。。。」
ふらっとソファから立ち上がって部屋の窓から空をながめていた結城さんが、月を見つめて微笑む。夏の夜空を占拠している天の川と星座たちを半月が西の空から、やわらかく照らしていた。
「結城さん、今日はほんとうにありがとう。母も、あなたの事、すごく気に入っていましたね。俺、嬉しいです」
ぎゅっと、彼を後ろから抱きしめて俺はささやいた。
「ううん、俺こそ、会えて嬉しかった。お母さんね、俺の事、息子だって言ってくれて、、、もう、涙でちゃったもん、、あ、マキが寝てる時の話だけど」
俺が寝ている間に、二人に何があったのかそれだけではあまり分からないが、結城さんの穏やかな笑顔を見ていると、それが、歓迎すべき出来事だと言う事はわかる。
「お母さんって、すごいね。きっと、世界で最強の、無敵の存在だよ。子供の事、一番に考えて信頼してくれて、、ずっとずっと信じてくれてるんだよね、、、そして俺たちを認めてくれて。俺も、マキのお母さん、信じれるよ」
俺の手を優しく撫でていた結城さんが、振り返って強い瞳で俺を見つめてきた。
「俺、ちゃんとマキのお母さんを、大切にするから、そして、俺たちも信頼を裏切らないように、ずっと幸せでいようね」
「はい、結城さん」
俺たちの人生には母のように、子供という愛の結晶は出来ないけれど
それでもあなたといれば
あなたを想えば
俺はきっと無敵になれる
俺は・・・
あなたのために、生きていきます
そっと、彼の頬に手を触れて、
俺は、これからの二人を思ってつぶやく。
「あなたと一緒に・・・・ずっとここで、幸せに暮らしていく事を、誓いますよ」
俺の腰に腕を回して、結城さんの顔が俺に近づいてきた。
そして
目を閉じて、彼からの優しいキスを、俺は受け止める。
「マキ、、愛してる」
「愛してます、結城さん」
彼を抱きしめて、俺は、その温もりを存分に味わう。
結城さん
あなたとこうやって、笑顔になれて
抱きしめて
愛してると伝えあって
俺は本当に幸せです
だからここで、この街で
あなたとたった二人の楽園を
つくっていきましょう
☆☆☆☆☆
次は
あとがきとおまけです