短編集

□手、つなごぉ(5p)
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寒い寒いクリスマス、大好きなルームシェアメイトのユキさんを捜しに、電車に乗った俺。

ユキさん、どこに行ったの?


−−−−−−−−−




手、つなごぉ

☆☆☆☆☆


「さっむいな・・・・・・なんか雪降りそうな雲。ホワイトクリスマスになったら、最悪だよ・・・・・・」

 朝10時前に外に出た俺の頭上には重い色の雲があちこちにあって、幾度となく木枯らしが吹いてる。
 その冷たい風が当たる耳は痛いくらいで、もう季節は俺の大嫌いな冬なんだと十分わかってるけど、寒いのはほんと嫌い。

 目の端々に町並みを彩るクリスマスの緑と赤のあったかい装飾がちらつく。でも5月生まれで寒さの苦手な俺はついつい、口から愚痴がこぼれてしまうんだ。
 グレーのダッフルコートにチェックのマフラーをして、さらに手袋までしてるけど、寒いもんは寒い。だから雪も苦手。
 オーストラリアみたいに、雪の降らない夏にクリスマスが来たらめっちゃうれしいのに。


 俺は、高橋陽一(タカハシハルイチ)通称ハル。23歳社会人一年目。今日はクリスマス目前の3連休初日だというのに、俺はとある人物を捜して町をフラツいていた。

 探している相手は俺のルームメイト、田宮悠季人(タミヤユキト)30歳。俺は彼をユキさん、って呼んでる。見た目はともかく年上だから。

 ユキさんは俺と3LDKをシェアしてる人。すげえ童顔で、初めて会ったときは絶対俺より年下だと思った。背も175センチある俺より10センチ近く低いし。

 彼との出会いは今年の春。大学を卒業してやってきた就職先の会社があるこの街で、アパートを探して不動産屋を訪れたとき、隣で同じように住むところを探していたのがユキさんだった。
 柔らかい質感の茶髪を耳が隠れて肩に着きそうな長さまで伸ばしてた彼。多分切るのがめんどくさくてこうなっただろう、っていう髪型。だけど二重で少し細目の優しい瞳と小さめの薄い唇とか、全体的に整ったきれいな顔立ちと雪みたいな白い肌。彼はそんな適当な髪すら良く似合ってた。

 田舎から出てきたらしいユキさんは、この街の家賃が高いことに『こんなの住めるわけねぇよ・・・・・・』って言ってたんだ。確かにこの街は、駅前徒歩10分の距離でも1Kで6万はする。
 俺も新入社員という安月給で高いアパート借りるわけにいかない。思わず『ほんと高いっすよね』って彼に話しかけたんだ。そしたら、目の前にいる不動産の人が『友達と部屋を分けてシェアするって言う方法もありますよ』って言って。

そしたら『『初めて来た街に友達なんていないし』』って俺とユキさんの声がハモって、二人で爆笑した。

 そんな出会い。

 その後、彼は俺の顔をまじまじと見て、
『あんた、俺の幼なじみにめっちゃ似てる。すげー親近感っ』ってさらにフワッっと笑って、その顔に実は見とれてたなんて、彼には口が裂けてもいえないけど。
 だから『その幼なじみさんも俺と同じイケメンなわけねっ』ってごまかしたら『ばーかっ。なにうぬぼれてんだ、おまえなんて面長の馬顔だっ』ってケタケタ笑った。
 その顔すら超きれいで可愛くて、また見とれてた。美人な男の人ってホントにいるんだな。言葉使いは顔に似合わずちょっと汚いけど。

 なんてさ。

 俺たちはそのまま意気投合して、初対面だったのに一緒に住むことにした。そして駅まで徒歩9分っていう家賃15万の少し古い賃貸マンション(3LDK)を6:4でシェアしてる。
『結婚してんのかっ』てみんなに言われるけど、それには理由がある。
 ユキさんの職業は画家。まだそんなに売れてるわけじゃないけど、将来有望視されてるんだ。
アトリエが必要な彼は、独り身なのに2つ以上部屋数のあるところを探してたわけ。
 で、3つあるうちの二つをユキさんがアトリエと寝る部屋に使用してて、残りを俺が使ってる。キッチンやトイレは共同だけど、リビングもあってソファでくつろげるし、シェアして良かったぁーって俺は思ってる。
 友達を連れてきて宴会するにもぴったり。

 そんで、なんで俺が今、ユキさんを探してるかって言うと、なんとユキさん、行方不明なんだよ。もう1ヶ月以上。
 元からユキさんは一週間くらいフラッといなくなる事も良くあったんだ。
 絵を描くのが仕事だから、そのために旅に出てるみたいで。いつも出かける前に置き手紙をしてくれてた。『ハル、また1週間後に会おう』って。
 そして帰ってきたユキさんは、めちゃくちゃきれいな風景画を俺に見せてくれて、絵心なんてカケラもない俺は、ただただ、感嘆の声しか出なかった。

 なのに今回は『一週間後に会おう』って書いてたにも関わらず、すでに1ヶ月以上も経ってるんだ。心配で彼の携帯にはもちろん何回も電話した。でも『電波の届かない所におられるか・・・・・・』って機械的に言われるだけ。だんだん心配がたまって、俺はいてもたってもいられなくなってきて、今日からちょうど3連休だからユキさんを探しにいこうって決めて外に飛び出したんだ。
 まさか、クリスマスを目前にして人探しするなんて思いもしなかったけど、どうせ一緒に華やかな夜を過ごす人なんていないしさ。それに俺、思い立ったらすぐ実行っていう、一直線野郎だから。


 空は塗り込めたみたいな濃い鼠色の雲でだんだん覆われて来てて。こんな天気じゃ、そのうち本格的雪になりそうだな、と思いながら足早に駅へと歩いた。
 だけど、駅にたどり着いたとき、人探しってどうやるんだろう。そんなのやったことない。と俺の足は止まった。

 うーん、と考えても、刑事ドラマで良くある写真見せて道行く人に『この人知りませんか?』って聞いてるシーンくらいしか思いつかない。

 そして俺はユキさんと写真って撮ったことなかった、って今更思い出した。
 ルームメイトですげえ近くにいるのに写真すら持ってないなんて、と気休めにスマホのギャラリーをチェックしたけど、あるのは同僚と安い飲み屋でバカ騒ぎして撮ったゴミ同然の写真と、ユキさんの描いた風景画が少し。

 ああ、ユキさん、あなたを撮ってなかったなんて、ショックです俺。
 曲がりなりにも、あなたに恋してるのに・・・・・・とさらに落ち込んだ。

 そう、俺はユキさんが好きなんだ。

 気づいたのは1ヶ月前。それまでも前兆、みたいなのは感じてた。でも男だし、って俺は自分の気持ちを「ただの気のせい」って事にしてたんだ。

 だけど、その日、ユキさんが珍しく酔っぱらって俺に絡んできた。
『うれしーよぉ、俺の作品、すげぇ気に入ってくれた人が、その人の美術館に飾ってくれるんだよぉ〜』
って。

 俺も彼の作品が評価されたことに嬉しくて、二人でリビングのソファで酒をガバガバあけてた。ユキさんはビール飲みながら、大好きなドーナツをハムハム食べてて。普通ビールったら塩気のある食べ物と合わせるのに、ユキさんオヤツの時間みたいに。そんな彼もめっちゃかわいくて。
 まあ、そのドーナツはユキさんの出世祝い(?)に俺が帰宅途中買ってきたものなんだけど。
 そしたら、酒とドーナツで泥酔状態になったユキさんが、俺を間違えたんだ。

『レン、れぇん、、おまえに見せたかったよぉ』
 って。
『ユキ、さん?・・・・・・俺、ハルだよ?』
って言ったのに、
『レン〜、手ぇつなごっかぁ。お前、昔っから好きだっもんなぁ、てぇあったけえ〜』
って言って白い肌を真っ赤に染めためっちゃかわいい顔で俺の手をぎゅって握ってぶんぶん振って、そんで崩れるようにそのまま寝ちゃった。  
 
 レンって、誰?
 俺に似てるって言う幼なじみ?

 もう、混乱と嫉妬で俺、しばらく動けなかった。酔いも一瞬で醒めてしまって、その晩は寝られなくて。
 なのに、翌朝、酔っぱらったせいで記憶のないユキさんは、
『ハル、昨日はありがと。飲んだくれてたな俺。お前がいて良かったわ。ルームメイトになって良かったぁ』
ってすげえ笑顔で言ってきた。
 俺はさらに打ちのめされた。彼が寝落ちる前につないだ手の温もりだけが異常に熱く思い出されて。
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