短編集

□手、つなごぉ(5p)
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 ワンマン電車が到着した終点はもちろん無人駅。周りは山と少しばかりの家と、そして舗装が剥がれそうな古い道路。

 俺は、切符を電車の運転手兼車掌さんに渡しながら聞いた。
「すみません、田宮悠季人さんを探してるんですけど、ここ来てます?」
「ああ、ユキちゃんなら、一月くらい前から来てるね。彼の家に行けばいるんじゃないかな?」
って、田舎の人らしく、朗らかに言ってくれた。

 その時、後ろからしゃがれた声がかかった。
「アンタ、あの子の知り合い?」

「へ?」
 いきなりの声かけに驚いて振り向いた先には、少し腰の曲がった70歳くらいの小柄なおばあさん。なぜかおばあさんも俺を見て驚いた顔してたけど。
 その理由はすぐに解けた。
「レンっ、、レンっ、・・・・・・ああ、人違いだよね・・・・・・ごめん」

 このおばあさん、レンさん知ってるんだ。やっぱ俺、レンさんに似てるんだ。

「すみません、俺はレンじゃなくてハルって言います。俺、ユキさんのルームメイトなんです。彼に会いたくてここまで来ました」

 おばあさんは残念そうな表情をすぐに消して、
「ハルか。アンタの事なら、ユキから少し聞いてるよ。年下でかわいいとか言ってた。ちょっとこれ持ってよ。重いんだから」
と言い、デカい風呂敷包みを俺に手渡して、さっさと電車を降りる。俺もその風呂敷を慌てて持ち上げて、彼女の後を追った。

 てか、かわいいって・・・・・・ユキさん。そりゃ俺は年下だけどさ。はっきり言って馬顔の俺より、ユキさんの方が万倍かわいいと俺は思うよ。

 重くてデカい風呂敷をしっかり抱えて、俺はおばあさんの隣にならび、古い田舎道を歩く。

「ねえ、おばあさん、俺、ユキさんに会いたいんだ。ユキさんち、教えてくれないかな?」
「今からユキの分のご飯作るから、それ、その材料が入ってる。出来たらあんた、ユキに持ってってよ」

「・・・・・・っはいっ!!」

 それって、ユキさんち教えてくれるって事だよね、って分かったら、思いっきり元気良く返事をしてしまった・・・・・・
 赤面した俺を見て、おばあさんは吹き出した。

「ぷ、あはははっは。ホントかわいいねハル。さっきはごめん、レンなんて呼んじまってさ。全然似てないわ、孫のレンとは。ユキの言った通りだね」

「もう、おばあさん、そんな笑わなくても、てかおばあさんの孫なんだ、レンさん」

「ははっ、ユキがかわいがるわけだねぇ。ユキ、じぶんちで絵を描いてるから。あの子昔からご飯も食べずに没頭するタイプだからね、ちゃんと作ってあげなきゃ」

「おばあさん、ちっさい頃からユキさん知ってるの?」

「ユキは家族みたいなもんさ、アンタもユキのルームメイトだから家族みたいなもんだろ?こんな遠くまでわざわざ来るくらいだから」

 いや、俺は、ヨコシマな気持ちがいっぱいでやってきたんです。
 なんて言えないけど、ハハハと笑う俺の顔を見て、

「ガキだけど、芯はしっかりしてそうだねハル。でもせっかくのクリスマスなのに、恋人と一緒に過ごさないのかい?」
なんてニヤッと笑った。

 その、恋人にしたい人に会いに来たんです。
 もしユキさんと過ごせたら、それこそほんと幸せのクリスマスだよね。
 

「恋人、いないんですよ」って言いつつ俺は、大好きなユキさんを思い浮かべた。

 
 そして俺をガキ扱いするおばあさんの荷物を持ったまま、俺はおばあさんちに行くことになったんだ。


*****

 おばあさんちは古い日本家屋。
 土間をあがると、もちろん畳の部屋。
 その部屋の壁に、ひとつ、絵があった。じっとそれを見つめてたら
 
「ユキが2年前に描いてくれたんだよ」
と嬉しそうに言った。

 それはおばあさんの肖像画。すごく優しそうに笑ってる。
 
 ユキさん、人物画も描いてたんだ。めっちゃうまい。
 おばあさんの人情とか、温もりとか、そう言うのまで伝わってきそう。

「すごい、、」

 俺に、この絵の素晴らしさを語れるボキャブラリーが『すごい』以外ないって言うのがほんと悔しい。


 ユキさんのこと、けっこう知ってるつもりで、俺、なんにも知らなかったんだな。
 と、ちょっとこの絵の中のおばあさんに嫉妬したりもして。俺もいつか描いてほしいな、なんて。

 
 そして家に着いたおばあさんは、早速ストーブをつけてコタツのスイッチを入れた。寒い家が少しずつあったまっていく。
 その時、ここレンさんの家でもあるんだよね、って気付いて、俺に似てるレンさんに会いたくなった。

「おばあさん、レンさん、いないの?」

 台所でユキさんのご飯用に野菜を切ってるおばあちさんの背中に声をかけたら、

「レンは2年前から帰ってきてないんだよ」
って言った。

「へえ、遠くに行ってるんだぁ」
「そだねぇ、まあ、ユキがいるからあたしは寂しくないよ、あはは」
って笑って、サクサク野菜を切っていく。

 そしてお鍋にお肉と野菜をポンポンほおり込み、ユキさん用の鍋はあっという間に出来た。

「これコンロにかけて火が通れば食べられるから、このまま持ってって。昼ご飯の時間にはちょっと遅いけど。ユキんちはこっからまっすぐ道を進んだら30分くらいで着くよ」

「さ、さんじゅっぷん???」
「3キロくらい向こうだから、よろしく」

 なかなかの距離をさらっと言って俺に具沢山の鍋を押しつけたおばあさんは「アンタが一緒に食べてもいいように多めに入れといたから」って嬉しいことを言ってくれた。

「雪、降ってくるかもしれないから急いで行きなよ」
「俺、雪嫌いなんだよ。寒いの苦手で」

 俺が顔をしかめてぼやいたら

「あたしも雪は嫌いだよ。冷たいしたくさん降ったら重いし。気が合うね。ほら、ハル急いで」
とおばあさんは俺の背中を押して外に出した。

 もちろん俺は、ユキさんに会うためだし嫌いな雪が降っても行かなきゃと、その鍋をしっかり持って足を進めた。


 空はさっきより暗くなってて、ほんとにもうすぐ降ってきそうな感じ。
 俺は早足で彼の家を目指したんだ。
 歩く道は寒々しい木しか見えない。

 でも、歩いてるとだんだん暖かくなってきた。早足で歩いたことだけじゃなくて、ユキさんに会えるって言うウキウキ感もプラスして、寒さなんて感じなかった。
 
 約30分の道、その間一軒も家がなかったけど、ようやく木々の向こうに見えたおうちに胸がときめく。

 あ、あれが、きっとユキさんち。 

 俺がいきなり来たことに驚くかな?

 『ハルッ』って笑顔で呼んでくれるかな?


 ああ、どうやって告白しよう。
 なんにも考えてなかった。
 
 ドア開けたとたん『好きだ』なんて言うのはだめだよね。
 お鍋を食べて、おなかいっぱいになって、そんで、ユキさんの作業が一段落して、その後がいいよね。

 オッケーしてくれるかな。
 やっぱり、男だしそんな訳ないか・・・・・・
 でも、おばあさんに俺のこと話してたみたいだし、俺のこと嫌いじゃないよね。

 オッケーじゃなくていい。
 告白して、ユキさんが俺のこと意識してくれるようになったら、それだけでいい。

 うん。
 まずはそこからっ!
 ガンバレっ俺っ! 


 彼の家のドアの前で気合いを入れて、俺はノックをした。
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