総一テキスト

□-喪失
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―――総士がいない。
何処にもいない。

アルヴィスの部屋に行っても、小さな箱がベッドの上にあるだけで。
中を覗けば、総士の少ない私物が入っているだけで。
硬いベッドに横になっても、総士の温もりがなくて。
判るのは、かすかな総士の匂いだけ。

「総士…何処…?」

小さく呟いた声は、どこか遠くから聴こえるモーター音に掻き消された。



蒼穹作戦の翌日。
損傷したファフナーやシステムの修理に追われてはいたが、学校は通常通りに授業が行われた。
そんな中、一騎達のクラスは一番空席が目立っていた。

「一騎くん…来ないね…」
「パイロットは1週間の休養を許されている。来る気が無ければ、来ないだろう」

心配そうに言う真矢に、カノンも少し寂しそうに呟いた。
減っていくクラスメイト。
慌しい日常の中で、空席を移動させる暇も無く。
そこにいる筈の人間がいない隙間だらけの教室は、真矢達の温度を急激に低下させていった。



―――雪が、降っている。
周りの音を全て吸収したかのように、辺りが静まり返る。
傘を差さずに彷徨う一騎の身体には、白い雪が微かに積もっていた。

「総士…お前…何処にいるんだ…?」

まるで総士とかくれんぼをしているかのように、虚ろな目で総士を探す。
ふと目に留まった先には、鈴村神社の大きな御神木があった。
大きく手を広げるように伸びるその木は、葉が無いというのに絶対的な存在感を主張していた。

小さい頃は、総士とよく御神木の下で昼寝をした。
そこは一騎と総士の特等席で、頬をくすぐる風が吹き抜けるのが、とても好きだった。
この場所で、二人で。笑いあって、じゃれ合って、楽しかった。

「そこにいるのか…?総士…」

さく、と、雪の上に膝を立てる。
総士の特等席―――正面から見て右側の、大きなコブの下。
一騎は、その場所の雪を一心不乱に掘り始めた。



「っ…あたしやっぱり、今日帰るね」
「そうか…あまり、無理はするな」
「うん。…ありがと」

休み時間。
1限目の数学の授業を終えた真矢は、カノンに告げた。

「カノンは、どうするの?」
「…ここにいる」
「そっか。じゃぁ、また明日、ね」

口元だけに笑みを湛え、クラスメイトに挨拶をして帰っていく真矢。
そんな真矢を見ながら、カノンは少しだけ目を細めた。

「…あの敵を倒したからと言って、元に戻るわけでもない…か」

寧ろ、事態は急激に悪化している。
一部では、特に。



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