総一テキスト

□+振り返ればエビフライ
1ページ/2ページ

「今日の夕飯、何にしよう…」
「何だ、珍しいな、まだメニューを決めていないなんて」

穏やかな日常。
フェストゥムの襲撃もここ最近全く無く、ファフナーの訓練をする以外には、以前と変わらない日々。
そんな日々を、島民達は大切に噛み締めるように暮らしていた。

「俺だって、そういう日はあるさ。うーん、どうしよう…昨日はハンバーグだったし、一昨日はアジの開き…。だめだ、最近メニューがローテーションになってる…」
「以前から思っていたが、主婦の悩みだな、メニューのローテーション化というのは」
「料理作る奴なら誰だってメニューに悩むだろー?俺だってそんなに料理のレパートリーある訳じゃないし」

一騎は長い階段を上りながらため息をついた。
時刻は3時40分。
日が沈むにはまだ早い時間で、昼よりは幾分か柔らかな日差しが一騎と総士を照らしている。

「お前がレパートリーが無いと言ったら、この島の主婦はどうなるんだ…」
「え…?」
「…いや、なんでもない」
「変な総士っ」

ふと横を見ると視界に入る、民家と海。
キラキラと太陽の光を反射する水面は、見ているだけで一騎の目を射すように痛めた。

「一騎?」
「え、あ…ごめん、ちょっと余所見して…」

隣を歩いて来ない一騎を不審に思った総士。
声を掛けられた一騎が視線を元に戻すと、首だけを向け自分の方に振り返っている総士。
さらりと長い髪が揺れ、自然と目で追ってしまう。

「…あ!」
「!?」
「今日はエビフライ!」
「…エビフライ?」

何時間も苦戦した問題がようやと解けたように、満面の笑みで言う一騎。

「お前の髪の毛見て思ったんだ!白いパーカー着てるから、ホワイトソースだな!」
「ほ、ホワイトソース…?というか一騎、人の髪の毛からエビフライを連想するなんてどうかしている…」
「そうか?だって総士の髪の毛、色的にも揚げた衣っぽいし…何よりその毛先の結び具合がエビの尻尾だ」

ふふん、と何故か勝ち誇ったような笑みを湛える一騎。
それが面白くないのは総士だ。

「なら一騎は何なんだ」
「俺?俺はー…何だろうな。別に総士みたいな食べ物を連想させるような髪型でもないし」
「いや、よく考えればある筈だ!」
「何ムキになってんだよ…」

ブツブツと何かを呟きながら長考している総士に、一騎はクスリと笑った。

相変わらず、海は眩しい。
この海がオレンジに染まる頃には、夕食の買出しを終わらせなければいけない。

「総士っ…買出し、付き合ってくれるか?」
「ああ、勿論だ。…ついでに、ご馳走になってもいいか?食べ物の事を考えていたら、一騎の料理が食べたくなった」
「…あぁ。あんまり期待するなよ?」
「それは無理な話だな」

何でだよ、と一騎が総士のわき腹を肘で突付く。
仕返しとして総士も同じように突付いた。


―――こんな日々が、ずっと続けばいいのに。

じゃれ合い続ける一騎と総士は、心の中でポツリと呟いた。


「…そういえば、遠見はタコさんウインナーだよな」

あのハネ具合が、と、一騎がサラリと言ってのけたことに、総士は軽い眩暈を覚えた。
明日の弁当は、絶対にタコウインナーだ。


Fin



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ