総一テキスト
□+羽佐間翔子の憂鬱
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「…でね、一騎くんたら最近皆城くんとばっかり一緒にいるの。…ううん、皆城くんの方から一騎くんに引っ付いてるって言うか…。とにかく!ファフナーに乗ってから、あの二人の親密度がぐんと上がってるのよ!」
ビシッ、と人差し指を指して、少し興奮気味に真矢ちゃんが言った。
夕日が射し込んでいる、私の部屋。
レースのカーテンが揺れる度に、真矢ちゃんの髪がチラチラとオレンジに染まる。
「いつも一緒なの…?いいなぁ、羨ましいなぁ…」
「羨ましいで済まされるようなものじゃないのよ!?お昼休みだって、一騎くんの手作り弁当を皆城くんが食べてたり、ちょっと会話を盗み聞きしたんだけどね、新婚みたいな雰囲気だったのよ!!」
し、新婚みたいな雰囲気…?
一騎くんと、皆城くんが……?
一騎君の…手作りのお弁当…。
* * * *
『はい、総士。今日の弁当』
『いつもすまないな、一騎』
『それは言わない約束だろ?』
にっこりと笑う一騎くん。その笑顔につられて、私達が見た事も無い穏やかな笑みを浮かべる皆城くん。
『お前、俺がいないと何でもコーヒーか紅茶で済まそうとするし、心配なんだよ』
『一騎が作った物以外は、極力口にしないようにしているんだ』
『総士…お前…』
何馬鹿みたいな事を、と、嬉しさを押し殺して紡ごうとしたその言葉は、皆城くんの口付けによって消されてしまう。
『んっ…』
『一騎…愛してる…』
『総士っ……』
見詰め合う二人。穏やかな風が二人を包み、空には蒼穹が広がる。
ガチャ
『やっぱり屋上は天気がいいねー』
『そうだねー。あ、あそこで食べよう!』
すると、屋上から二人の女性徒が入って来た。
一騎くんたちの存在に気付いていないのか、足早に貯水タンクの裏へと向かって行く。
『…お、俺達も、食べよう!な、総士!?』
『そ、そうだな。昼休みも残り少ない』
時間が少ない所為か、惜しむように、でも一口ずつ噛み締めて味わう皆城くん。
そんな皆城くんを眺めながら、一騎くんも箸を進める。
『……あ、総士、米粒が…』
『何処だ?』
『右の…』
そう言って皆城くんの頬に手を伸ばし、ご飯粒を取って自分の口に含む一騎くん。
『…なんだか、新婚みたいだな』
『っ…!?そ、そんなこと…』
『すると一騎は新妻だな。うん、ぴったりだ』
『ぴった…!!そーしっ!!』
頬を紅潮させて抗議するその様子に、噎せ返る程の愛しさが沸いてくる総士くん。
あぁ、私も…私も一騎くんの照れて赤くなった顔が見たい…!!
出来ることなら皆城くんと交換…ううん、ただ傍観出来るだけでいいの…!!
あぁもう…こんな時自分の体が本当に恨めしいわ!!
一騎くん…!一騎くん…!!
* * * *
「ちょ、ちょっと、翔子?」
「…え?あ、ご、ごめんね、ちょっと考え事しちゃった…」
また妄想しちゃった。
最近の私の趣味になりつつある妄想。
真矢ちゃんのお話を聞く度にしちゃうなんて、だめだなぁ。
「それなら良いけど…。あ、あたしもうそろそろ帰るね。お姉ちゃんに晩御飯の買出し頼まれてたの」
「そっか…。今日も色々お話ししてくれてありがとう。また来てね?」
「勿論!また一騎くん…と皆城くんの話、一緒にしようね!」
「うん!」
…皆城くんのお話は、あんまりしなくてもいいけど…。
真矢ちゃんの後姿を見ながら、ポツリと心の中で呟いた。