総一テキスト
□+恒例行事の罠
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「…2月13日…」
日めくりカレンダーに記された数字を読む一騎。
明日は2月14日。
俗に言う、「聖バレンタインデー」だ。
普段は比較的無口で無愛想とされている一騎だが、学校では甲洋や総士と同様に人気がある。
その為、2月14日には数多くの女生徒(たまに男子生徒)からのチョコを贈られるのだ。
元々甘いものを好んで口にすることが少ない一騎。
疲れた時に生理的欲求で口にするだけで、毎年送られてくるチョコの膨大な数はとてもじゃないが消化できない。
しかし、彼女達の気持ちを無碍にする訳にもいかず、一口ずつ食べて申し訳ない気持ちになりながらも、処分させて頂くのだ。
ちなみに処分先というのは実の父親の胃袋の中だという事を此処に明記しておく。
「…あげないと、総士と親父…煩いよな…」
ガックリと項垂れて、慣れた手つきでエプロンの紐を結んでいく。
今日は幸運にも日曜。チョコ作りには十分な時間がある。
何故男である自分が男にチョコをあげなければいけないのか。
それは一騎の幼い頃からの疑問であり悩みである。
料理上手だから、というのもひとつの理由らしいのだが、一騎にチョコを要求している男二人としては、「一騎だからだ」と、一騎の悩みを一蹴するかのように答えたそうだ。
「はぁ…明日が来なければいいのにな…」
何言ってるのよ!と、島の女の子に怒鳴られそうな言葉をため息と共に吐きつつ、支度を始めた。