総一テキスト

□+My sweet child
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「・・・こうして、赤ちゃんは子宮の中で育ち、10ヶ月前後で此処の産道を通って生まれるという訳です」

遠見先生の声と、黒板の板書をするシャープペンの音。

今まで保健の授業は男子と女子は別々にやっていたけど、先週から男女一緒にやる単元に入った。

それは、妊娠から出産までの、生命の誕生の過程。

フェストゥムの所為で生殖機能の一部を失った俺達には、大人がどんな気持ちでこの授業をやるのか判らない。
判らないけど、多分、凄く辛いんだと、思う。

先生達大人だって、出来る事なら今からでも自分達で子供を作って育てたいだろう。
女性にとって出産や子育ては、女性という性に生まれたからには、とても大切で尊い事なのだと思う。

それを出来ないなんて・・・・。
そう考えると、本当にフェストゥムが憎くてたまらない。
人間は、これ以上何をフェストゥムに奪われなければいけないのだろうか・・・。

「・・・一騎?」
「へ?」

突然、隣の席の総士が話しかけてきた。
授業中に話しかけてくるなんて、あいつにしては珍しいんじゃないのか。

「いや・・・なんか、ぼーっとしてたから・・・。どうかしたのか?」
「ん・・・なんでもない」

総士が俺を気にかけて滅多にしない授業中の雑談をするのがなんだか気恥ずかしくて、俯いてしまう。

顔は見えないけれど、多分笑っているのだと思う。
微かにだけど、クス、と空気に溶けた笑い声を聴こえた。
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