総一テキスト

□+保健医皆城先生2
2ページ/5ページ



バタバタバタ、と、廊下を走る音がする。
足音が向かう先は、音が近づいていることから恐らく保健室だ。
また誰かが怪我でもしたのか、と、総士は少し陰鬱な気分で椅子から立ち上がった。


バンッ


総士がドアを開けようとしたその時、勢いよくドアが開いた。

「せんせー!皆城先生っ!!」
「ど、どうしたんだ、一体…」

飛び込んできた女子生徒を見遣り、この学校の生徒は静かにドアを開けるという事が出来ないのか、と、総士は頭の端でふと考えた。
しかし、生徒の一言でそれ所ではなくなる。


「真壁先生が、足首捻っちゃって大変なのー!」
「うわっ、そんな大きい声で言わなくてもいいっ!!」


目の前には、男子生徒に肩を借りながら恥ずかしそうに頬を染めている一騎。
そして、そんな一騎を心配そうに見遣る女子生徒。確か二人共、6年3組の保健委員だ。

「大丈夫か一騎!?…保健委員の二人、わざわざご苦労だった。速やかに授業に戻ってくれ」
「あ、はっはい!……真壁先生、大丈夫ですよね?骨折とか…」

総士の口調はいつもの事と知ってか、男子生徒は心配そうに首を傾げながら訊く。
一騎を長椅子に座らせ、熱を持ち、少し腫れ上がった足首に手を這わせる。
痛々しいそのさまに、総士の眉が少し歪んだ。

「検査しないと何とも言えないが、足の状態から見て…この程度なら、恐らく骨折まではしていないだろう」
「…そうですか、判りました。お大事にして下さい、真壁先生」
「あ…ありがとう…ごめんな、授業中なのに、こんな…」

二人の生徒ににこりと微笑まれ、一騎は教師としての失態を悔やんだ。
総士はそんな一騎をちらりと一瞥しながら、手では冷却用ジェルで足首を冷やしていた。

「いいえ。それより、早く完治するといいですね。失礼しました」

そう言って出て行く保健委員二人。よく出来た生徒だと、総士と一騎は関心した。





検査の結果、骨に異常はなく、軽い捻挫ということが判った。
安堵した総士は、モニターに映るデータを見てふぅっとため息をついた。

「痛むか、一騎」

「ん…今は、そんなに。というか、周りが一々大袈裟なだけだ。少し足を捻ったぐらいで…」
「捻挫をなめるな。捻挫だって松葉杖を突かなくてはならないぐらい重度のものもある。最悪の場合、入院だ。それに、一度捻挫した足首には癖がついて、これからもっと捻りやすくなるんだぞ」

窘めるような口調と、鋭い眼光。
一騎は言葉に詰まり、ごめん…、と謝った。

「謝るぐらいなら、もう怪我なんてするな。いいな?」
「…善処、する…」
「そもそも…一騎が捻挫するなんて、滅多にないことだが…一体どうしたんだ?」

自己嫌悪で縮こまっている一騎に、幾分か柔らかみを含ませて問う。
すると一騎は、ギチギチと音が鳴りそうなぐらい不自然に首を上げて、「ひ、秘密…」と目を逸らした。

「一騎…?」

にじり寄ってくる総士。じわじわと長椅子の端に追い詰められる一騎。

「べ、別に理由なんてどうでもいいだろ?」
「どうでもいいものなら、何故隠す」
「う…あ…」



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ