総一テキスト

□+保健医皆城先生2
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なかなか口を割らない一騎に、皆城は静かに言った。

「一騎、僕らは今、保健室に二人きりという状況だ。当然、此処にはベッドがある。オプションでバスルームもある。…さて、僕らはこれから何をするのだろう?」

にーっこり。
一騎曰く、恐ろしい事を企んでいる時の笑み。


「ね、寝る…とか」

苦し紛れにボケる一騎だが、それは仇となる。

「寝る!あぁ、寝る!!そうさ、僕と一騎はこれから寝る!…随分大胆になったものだな、一騎」

腕を広げてオーバーアクションをとる総士。動く度に、まるで角度が決められているかのような完璧さで優雅に靡く白衣。
これで歯がキラリと光っていれば、少女漫画の王子様のようだ。

「ち、ちがっ!そっちの寝るじゃなくて、スリープだスリープ!!」

慌てて訂正する一騎。
手をぶんぶんと振るその様子は、幼い頃からちっとも変わっていない。


「ふふふ、今夜はスリープレスだ、一騎…」
「そんな微妙なパクりはいいからっ…ちょ…どけ!俺は病人だぞ!!」

長椅子と一騎にゆっくりと沈み込んでくる目の前の人物に、一騎は危機感を感じて叫んだ。
そして、じたばたと手足を動かしなんとか抵抗しようとするが、痛めた足首を長椅子にぶつけて痛みに喘ぐ。

「っぁ…!いてっ…」


「大丈夫か、一騎!?…すまない、ほんの冗談だったのに…」
「冗談に思えねぇよ!!莫迦総士っ!!」

痛みの所為で涙目になりながらキッと総士を睨む。
うっ、と鈍く声を上げて、総士は渋々長椅子から身を引いた。


「…まぁ、お前の捻挫の原因は監視カメラの映像を後でチェックするとして…本当に、これからは気をつけてくれ。僕はあまりお前の治療はしたくない」
「…(今物凄い事を聞いたような…)…判った」

この学校の監視システムは、全て皆城の手によってハッキング・監査済みだ。後でチェックするなど、容易なことだった。

「それと、念のため、今日の授業は座学を行うか、極力動かないようにしてくれ」
「極力って…どれぐらい?」
「歩く以外はするな、という意味だ」
「……判った。無理して長引かせても、迷惑掛けるだけだもんな」

力無く笑う一騎。
今日の事で、生徒や他の教職員に迷惑を掛けたと、気に病んでいるのだ。

「そうだ。だから、無理は控えてくれ。痛みや腫れは1週間もあれば引くだろう。それまでは、電気治療を行う」
「ん、宜しく。ごめんな、こんな怪我して…」
「それは僕じゃなくて自分の身体に謝ってくれ」

胸を張って総士は答えた。
何故こんなにも堂々と、しかも偉そうにしているのか、一騎には判らなかった。

「…自分の身体に謝るって、なんか変じゃないか?」
「とにかく、謝ってくれ」
「う、ん?…えと…ごめん…」

何処を見て話せばいいのか判らず、とりあえず広げた両手に謝った。

「もうお前だけの身体じゃないんだからな」
「……は…?」

わけが判らず脳内でクエスチョンマークを浮かべる一騎。
そんな目の前の愛しい恋人を見遣りながら、クスリと笑みを零す総士。



「それより一騎、もうそろそろ休み時間が終了する。まだ休んでいて欲しいのは山々だが、次は4年生の保健体育だろう?」
「あ!そうだった!!ありがと総士っ!!」

慌てて立ち上がり、ヨタヨタと床を歩く。
総士は肩を支えてやりながら、一騎の半身が麻痺した、忘れられない幼い頃の出来事を思い出した。



―――あの時も、こんな風に支えたことがあった…。


一騎がいなくなることに、酷く恐怖した日々。
自分もファフナーで出ると、そう覚悟したあのとき。
一騎の手の中で、砕け散ったとき。

自分の存在よりも、一騎と島の存在を最優先していた、幼きあの頃。



「じゃぁ、また後で此処に来るから」
「あぁ、待っている」
「じゃぁな」


幼い頃とは違う、でも華奢なのは変わらないその背中を見つめながら、無情とも言える時の流れを感じた。



それでも…

僕たちは、ここにいる。
昔も、今も、これからも、ここにいる。






見えなくなった背中を後にして、総士は保健室の中へと戻った。
口元に、うっすらと笑みを浮かべて。




...END...

⇒オマケ
 保健医別Ver.SSギャグ



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