総一テキスト

□-喪失
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ざくざくと、小気味よい音がする。
硬く重い雪は、一騎の指先から体温を奪い、雪面を僅かに紅く染めた。
ふいに、指先が硬いものに当たった。

「総士…っ?」

見えるのは土色。それに、白。
恐らくは雑草であろう白く小さな花が数輪、土色の中に混ざっていた。

「は、な…?」

何故こんな季節に、こんな花が咲いているのか。
硬い雪に押され多少は痛んでいるものの、しっかりと花開いていた。

「何で…何でこんな所に…あるんだよ…」

まるで、総士の命を吸い取ったかのように。
総士の代わりに、そこにいるかのように。

「そこ…総士の場所なのに…っ」

総士しか、いてはいけないのに。
何故お前は、そこにいる。

「何でお前が…そこにいるんだよっ!?」

一騎の赤くなった指が、白い花を無残に摘み上げる。
ぶちっと嫌な音がして、花は根から切り離された。

「総士がいないのに!!いないのに!!どうして!?」

ぐしゃり、と拳に力を入れる。
掌の生命がいなくなった気がした。


「っ…!?一騎くんっ!?何してるの!!」

傘を差した真矢が、青白い顔で一騎に駆け寄る。

「うるさいっ!総士が…総士がいないのに!!何でこんな奴がここにいるんだよっ!!」

続けて、同じように両の手で花をもぎ取る。
真矢の喉がヒッ、と鳴った。

「やめて…一騎くん…やめてっ…」
「そうだよ!俺が悪いんだよ!全部俺が悪い!!総士を助けられなかったのも全部!全部俺が悪いんだっ!!俺がもっと早く助けていれば、いなくならなかったかもしれない!俺がもっと上手く動いていれば、あんな事にだってならなかったんだ!!」

どんっ、と拳を雪面に打ち付ける。
真矢の両腕は傘を持つ事を放棄し、涙はとめど無く溢れ出る。
―――こんな結末しか、無かったの…?
込み上げる嗚咽を我慢する事もせず、ただ呆然と、壊れゆく一騎を見ているしかなかった。

「何で俺はここにいる!?何で総士がいなくならなきゃならない!?何で俺じゃない!?俺達より、ずっと…ずっと辛い思いをしてたのはあいつなのにっ!!総士を…総士を返せっ!!」
「一騎…くんっ…」


「総士を返せ―――っ!!!」



島の風が、空気が、揺れた気がした。


Fin



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