総一テキスト

□+恒例行事の罠
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「じゃぁ、頂きます」

一口分に綺麗に切り分け、優雅にフォークで口に運ぶ総士。
一枚の絵のように優雅なその仕草に、一騎は心の中で感嘆の息を漏らした。

「…うん、凄く美味しい。これなら売り物にしても売れるんじゃないか?」

口の中で噛み締めるように味わった後、総士は満面の笑顔で言った。
その言葉に安堵し、同時に頬を紅潮させた。

「良かった…。でも、売り物は大袈裟だろ」
「そんな事はない。商品としての価値は十分ある。…二人で店を出すというのもなかなか面白そうだな。いやしかし、一騎のこの素晴らしい味を他人にも味合わせるというのは…」
「あ、あの、総士…?」

ブツブツとフォークを持ったまま"一騎と総士の愛のケーキ屋"妄想に耽る総士。
こうなると手が付けられないのは長年の経験から知っている一騎なので、一人黙々とケーキを頬張った。

(…我ながら良い出来かもしれないな)

まだたっぷりと残っている欠けたホールケーキを見て、今夜見れるであろう父親の笑顔を思い浮かべた。
本人は気付いていないが、なんだかんだ言って一騎は結構なファザコンである。




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