総一テキスト

□+恒例行事の罠
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「では、先程泣いていたのはどう説明するんだ」
「だから、泣いてはいません。これから鳴かす…いや、啼かす所だったんですよ」

(なかす?)

きょとんとする一騎。
その愛らしい様子を目の端で見遣りながら、再び目線を史彦に向け、対峙する総士。

「…啼かす…。前々から考えていたのだが、一騎と君は一体何処までの関係なんだ」
「それは勿論…(ニヤ」
「ぇっ!?」

するりと一騎のシャツの間に手を滑り込ませ、性感を煽るように触れる総士。

「っ…!総士っ!やめっ…あっ」
「こういう関係…と言えば判り易いかと」
「お前…親父がいっ…んんっ!」

胸の飾りを爪弾かれ、段々と体の力が抜けていく一騎。
力を失った華奢な体は、同じく華奢な筈の総士が易々と支えている。

「…貴様っ……!その手を離せ!!!ああああ私の可愛い一騎がぁああぁあ!!!」
「嫌…と言ったら?」
「上官命令だ!!」
「職権乱用ですよ、真壁指令。それに此処はアルヴィスでもなんでもない…」
「ええい煩いうるさーい!!!」

駄々を捏ねる子供のように両手をブンブンと振り回す史彦。
そしてその両手を、総士に抱かれた一騎に伸ばす。

「一騎…!!そんな奴の傍に居ては、お前の体が危ない!!父さんと一緒にいよう!」
「…おや、じ…っひゃぁっ!?」
「一騎は渡しませんよ、指令」

伸ばされた史彦の腕から逃げるように一騎を引き寄せる総士。

「もっ…親父も総士も…いい加減にしろよ!!ケーキが美味しくなくなるだろ!冷蔵庫に閉まってないんだから!!」
「あ…」
「ケーキ?」

ケーキの一言にピクリと反応する史彦。
目を輝かせて一騎を見る。

「バレンタインに…作ったから…」

総士の腕を振り解いて、ちゃぶ台の上を指差す一騎。
其処には、先程まで総士が美味しそうに食べていた、欠けたホールケーキがあった。

「っ…一騎っ!!」
「な、何?」
「食べてもいいか!?」
「う、ん…その為に作ったんだし…」

戸惑いがちに言う一騎。
すると史彦は目を見張る速さで台所からフォークと小皿を用意し、ケーキカットを始めた。

「………」

その光景を見て、戦意喪失した総士。
ふぅ、とため息をついて一騎を見やる。

「…すまなかったな、一騎」
「すまない所じゃない!馬鹿総士!!お前、ほんっとに最悪だ!!」
「悪かった、だから許してくれ…」

つんとして、総士と顔を合わせようとしない。
そんな一騎のご機嫌を取ろうと必死の総士だが、それすらも無視して自らもケーキを食べるべく座る一騎。

「か、一騎…」
「ふーん(ぷい)」
「!!(ショック)」

史彦はと言うと、丁寧にケーキを切り分け小皿に載せると、震える手でフォークを扱う。

(あぁ、一騎の手作り…生きててよかった…)

涙しながらケーキを口に運んだ、その時。


<<バレンタインディ・キッス♪リボンをかけて♪>>

島中に流れる大音量の歌。



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