熱唱

□I want ... T
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「別れよう」

切り出されたのは、その日の夜だった。



婚約はしていたし、すでに五年も付き合っていた男女だ。ミレーヌが二十歳になるその日に、彼と彼女は結婚する。

ガムリンは、目を伏せてバサラを見ようとしなかった。
結婚式へ招待されたのが、今日の午後。重大な発表があるからと集められ、満面の笑みを浮かべたミレーヌと、照れくさそうに赤くなったガムリンは、声を合わせて言った。

「私たち…」

「「結婚することになりました」」


この時ほど、ミレーヌの笑顔を恨んだことはない。少女から女性へ成長した彼女が、バサラからガムリンを奪った。

五年間…ガムリンとミレーヌの出会いは、ガムリンとバサラの出会いだ。
戦いを通じて深まった絆は、やがて愛情へと変わった。バサラとガムリンの間で揺れ動くミレーヌの恋心に、周囲の人間は気付いていたが、急速に魅かれ合っていく二人の想いには気付かなかった。

確かな繋りが、二人の間には有った筈だった。
ミレーヌとガムリンの交際は続いていても、最後に選ばれるのは自分だという自信がバサラの中にあった。
それが、全く根拠のない自信だったことに気付かされた。



「…………わかった…」

ガムリンが、安堵したように笑う。
微笑み返せたのは、大人になったバサラの理性が働いた為だ。……嫌だと言うには、成長し過ぎていた。
最後に…と、ギュッと抱き締められる。

「…幸せになれよ…」

去って行くガムリンの背中を見つめ、バサラは喉の奥で笑った。








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