みじかい

□一緒にいられればいいや
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不思議だ。


「僕さぁ、きみに対してなにか性的な行為したことあったっけ?」
「性的な行為って言い方がなんかひっかかるけどないと思うよ!」

長い睫毛をぱたぱたさせながら、アリアは上目遣いにそう言った。
そう、僕はこいつに欲情しない。

自慢じゃないが僕は容姿端麗、品行方正、おまけにホグワーツきっての優等生だから、言い寄ってくる女生徒は数知れない。
僕がこの馬鹿アリアと交際していることを知っても尚、だ。
だから性欲の対象にする女に事欠くことはない。
他の女には欲情するのに、アリアには欲情しない。
不思議だ。


「トムは私にこーふんしないの?」
「………しないかも」
「マジで!?」

アリアちゃんショックー、とわざとらしく嘆く馬鹿。
この僕に遠慮のかけらもなく膝枕をさせる命知らずな僕の恋人は、短い腕で僕の腰に抱き着いた。

「私そんなに魅力ないのー?」
「そういう訳じゃないよ」
「じゃあなぜ!?なぜなのトムーっ!」
「うるさいよアリア」

アリアは感情が高ぶるとぎゃあぎゃあ喚いて暴れる癖がある。
腰に回した腕に力を込めてじたばたと暴れる馬鹿の頭を軽く小突いて黙らせてから、僕は僕なりにその不思議を解明しようと努力してみることにした。

「アリア、ちょっと起きて」
「あいよ」

変な受け答えをしたのは流して、ソファに身を起こさせる。
僕のズボンの皺の痕が赤く残る頬に手を添えて、アリアの顔を覗き込んだ。
淡い色をした青の瞳、ふわふわ…なのか寝癖なのか分からないけどとにかくちょっと癖のついた髪、白くて柔らかい頬、小さくて形の良い唇。
ほぼ常に間抜けな表情をしているのが惜しいが、見た目は中々綺麗に整っている。
殊に薄紅色の唇は、僕がアリアの体のパーツの中でも特に気に入っている一つだ。
気紛れを装って軽くキスをすると、いつも通り柔らかかった。
アリアがふにゃふにゃと締まりのない顔で笑う。

「ちゅーされちゃったー」
「いや?」
「ううん、好き」

笑顔でこう言える辺りこいつやっぱり馬鹿なのかな、と思う。
でもそんな馬鹿が好きな僕はもっと馬鹿なのかな?

「トムはなにを悩んでんの?」
「アリア馬鹿だから言っても分かんないよ」
「うわあひでえ」

ひどいと口では言いながらアリアはまたにこにこしている。
馬鹿な子ほど可愛いってのはどうやら真のようだ。アリアが可愛くて堪らない。
だけどそれは性欲には繋がらないみたいだ。不思議。なんでだろう。
あれ、なんの解明にもならないまままた同じ疑問に辿りついてしまった。

「アリア、触ってもいい?」
「いいよーてかもう触ってたよね!」

アリアのツッコミを無視して頬から首筋に手を滑らせると擽ったそうな声が聞こえた。
結び方の下手くそなネクタイをいっそ解いてしまって、ローブもセーターも着てないアリアのシャツの上から胸を触ったらアリアが変な声を上げた。

「おぉう、ふ」
「……なにその声萎えるんだけど」
「ごめんびっくりした」
「興奮しないって言ったらショック受けてたくせに。いやなの?」
「え、いやっていうかなんていうかだって興奮しないって言ったじゃないのさ」
「うん、興奮しないよ」
「マジでか」

アリアの胸はふわふわふにふにしてて触り心地がいい。
でもいつも他の女生徒に同じことをしたときの気持ちにはなれなかった。
いつもはこうすると相手が妖艶に微笑んで、僕もそれに合わせて笑ってやって、人間の本能が一つ性欲に従ってセックスになだれ込むんだけど。

「なんでアリア相手だとそうならないんだろ」
「そうってなに?どうなるの?」
「セックス。アリア、したい?僕と」
「ええっいきなり聞かれても困るよ」
「答えて」
「えー……別に、ものすごくしたいです!って感じではないですね、はい」
「僕も別に、アリアとしたいって思わないんだよ。不思議だけど」
「……そうなの」

アリアが小さく呟いた。
あ、まずい。

「トムは、あの綺麗なお姉さんたちとはセックスできて、興奮して、でも私にはしないの?」
「うん、そうだよ」
「それって私のこと嫌いになったってこと?」
「違う。僕はアリアが好きだよ、愛してる」
「でも興奮しないんでしょ?それは私の胸が小さいから?お姉さんたちみたいにきょにゅーになれば良いというのかトムこのやろー!」

さっきと同じくアリアはきゃんきゃん喚いて暴れた。
僕を殴ってくる腕を制することなく甘んじて受けてみる。おい馬鹿結構痛いぞ。

「そうじゃなくて。僕、アリアと長く一緒にいたいだけなんだよ」
「…どゆこと?」
「僕がセックスするのはその為だけの相手だから。早々にアリアとセックスしたらそれで終わりになりそうでいやなんだ」
「………なるほど!」

涙を目尻に溜めたままのアリアが輝かんばかりの笑顔を向けてきた。
ほんとに分かったのかなこいつ。
馬鹿だし分かってないんじゃないかな。
一抹の不安を抱く僕に、アリアは言い放った。



「つまりトムは私のことが好きで好きで堪んないってことだね!」







きみと一緒にいられればいいや。



(まあそういうことだけど、随分はっきり言うね。恥ずかしくないの?)
(全然?)

(……やっぱ好きだ)










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